大阪を世界でいちばん医療で安心できるまちに
救急搬送の受け入れ拒否が問題となるなど、日本の医療における救急医療体制の悪化が懸念されている。大阪府では救急告示病院がこの10年で約40施設減少し、救急搬送の所要時間は毎年増え続けて2010年度は30.2分(全国平均は37.4分)となった。えびす診療所の久保田院長が三島救命センターでとったデータによると、「救急搬送時間を20分以下に短縮すると救命率が約14%アップする」という。こうした状況に危機感を抱き、立ち上がったのが浪速区医師会だ。地域の病院と診療所が連携する「病診連携」の実現をめざし、「ブルーカードシステム」と呼ばれる患者情報の共有システムを確立したのだ。
まず病診連携を進める場づくりとして、久保田院長などが中心となり、2009年5月に「浪速区医師会 病診連携委員会」を発足。医師会メンバーと近隣の病院が定期的に会合を重ねた結果、救急搬送の時間を縮めるのが最優先と判断し、ブルーカードシステムを考案した。
しくみはこうだ。地域の診療所がブルーカードと呼ばれる患者情報シートに記入し、連携先として登録する病院にFAXする。そのブルーカードを受け取った病院は医師会にFAXを流し、医師会がネット上の情報共有システムにデータをアップする。ネット上のブルーカードは開業医、連携病院の医師がiPadやPCサイトで閲覧できる。
院長がこだわったのは、「地域の診療所すべてが参加すること」。IT利用率が極端に低い開業医の使い勝手を考慮し、「患者情報の登録はあくまで紙ベース、FAX送受信を基本にした」という。
ブルーカードの登録患者は現在464件で、救急搬送などに活用されたケースは270件にものぼる。搬送時間は24.1分(2012年度)と8分短縮し、「受け入れ拒否もほぼ起こっていない」。ブルーカードの登録患者の場合、事前に医療情報が確認できるため、救急時でも受け入れやすいのだ。たとえ受け入れが困難でも、他の登録病院と連携を図り、対応がスムーズに運ぶ。
こうした医療情報の共有化で最大の懸念はセキュリティだ。同システムの場合、大阪のシステム会社・フィードテイラーが開発したクラウドサービス「Syncnel(シンクネル)」を利用することで、セキュリティ問題の解決につなげている。
現在、他の医師会にも働きかけ、南医師会と天王寺医師会の参加が決まった。「将来的には大阪全体にブルーカードの輪を広げ、大阪を世界で最も医療で安心できるまちにしたいですね」。