うどん屋さんで風邪薬!?養生方法の提案で全国区に
声楽家やアナウンサー、落語家など、声の仕事をしている人から、「喉のケアにはこれ!」と絶大な信頼を寄せられる商品がある。株式会社うどんや風一夜薬本舗のしょうが飴だ。
同商品は、さまざまな健康への働きが知られるしょうがをたっぷりと練り込んでいる。同社の末廣美帆氏いわく、「美味しく食べられる限界いっぱいまでしょうがを入れています」とのこと。喉をいたわりたいときや風邪のひき始めにはピッタリという評判が評判を呼び、全国に多くのファンを持つ。
同社の創業は明治9年。創業者の末廣幸三郎氏が、しょうがと解熱剤を配合した風邪薬を開発したことにさかのぼる。このとき幸三郎氏は、漢方書にあった「風邪を引いたときは温かくて消化にいいものを食べ、一晩さっと寝るといい」という養生方法に注目した。大阪で温かくて消化にいいものと言えばうどんだ。そこで幸三郎氏は、「うどんを食べてこの薬を飲み、さっと寝れば風邪が治る」という養生方法をそのまま商品名にし、「うどんや風一夜薬」と名付けた。
さらに創業者の跡を継いだ2代目の幸三郎氏は、販路をうどん店に絞り込んで営業を展開。薬の効果や養生の手軽さなどが後押しし、全国のうどん店で同社製の風邪薬が扱われるようになった。この頃の大阪では、「風邪を引いたらうどん屋へ」という文化が定着していたという。ちなみに同時期に関東では、「そばや風一夜薬」という商品名で販売されたそうだ。
風邪薬という商品だけでなく、養生方法という“体験”を提案することで商品の拡販を実現したとも言える同社の戦略。まるで現代のマーケティングの教科書に載っていそうな施策の成果もあり、一時期は風邪薬市場のシェア8割を持つほどまでに普及した。しかし戦後、飲食店で薬の販売が禁止されてしまう。窮地に陥った同社が試行錯誤を経て生み出したのが、のど飴であり、お湯に溶いて飲むタイプの商品「しょうが湯」だ。
創業以来、同社では「世の中の役に立つことをしなさい」という教えを綿々と受け継いできた。コロナ禍を受けて、風邪薬や関連の食品市場は縮小してしまった。そんななか、「私たちが踏ん張ることが、これまで支えてくれたしょうが農家のみなさんを支えることにつながります。農家のみなさんのためにも、今は頑張りどきです」と美帆氏は言う。
近年の研究で、しょうがは悪心(吐き気)や嘔吐を和らげる効果を持つことが科学的に明らかになってきた。健康寿命の延伸や医療費抑制の観点から注目されるセルフメディケーションにおいても、しょうがは重要な役割を果たすと考えられている。
「製薬会社ならではの経験と技術、さらに、しょうがと長年にわたって向き合ってきた私たちならではのノウハウを活かして、社会のお役に立てる活動をする。それが、今後も変わることのない私たちの思いです」。
(取材・文/松本守永)