《講演録》副社長が語る!注目の企業マザーハウスの躍進の裏側にある経営哲学とは
―― 正しさで始めて、楽しさで広げる
入谷、そして私たちの店の場所は決して集客力の高いエリアではありません。どうやって900万円も売上げたのかと不思議に思われる方もいるでしょう。
僕たちはとにかく情報発信してイベントをたくさん開催しました。例えば、クリスマスの時期には僕がトナカイ、山口がサンタの恰好をして店頭に立ちました。すると前職の同期や先輩が「あの山崎が」と面白がって大勢来てくれて、せっかくここまで来たんだからと商品を買っていってくれたんです。
人は正しいことで動くのではなく、楽しいことで動くのだという気づきになりました。僕たちのビジネスがどれだけ社会の役に立つかを訴えるよりも、「面白い」「かわいい」といった形容詞で人の感情を揺さぶらないと物は売れないのだと。
―― 理念だけで持ちこたえるのには限界がある
ここまでお話してきたのは主に創業期のことです。このころは大変さもありましたが学園祭気分のような楽しさもありました。設立5年目で年間売上げが2.5億円くらいになり、会社としての体を成すようになってから、経営者としてのしんどさを痛感するようになりました。
当時40人くらいいた社員の中で、立て続けに2人が退職したのです。退職者の穴埋めをどうしようかと20人ぐらいが集まって事務所で話をしていたとき、僕のせいで人が辞めているのだという厳しい指摘を受けました。僕が理念をみんなに押し付けているのだと。
当時、僕は年間360日朝7時から終電まで全身全霊で働き、誰よりも仕事をしている自負がありました。会社の理念を自ら体現するのは至極当然だと思っていたんです。でも、実際にはみんな月18万円程度の給料の状態で、理念だけで持ちこたえるのは厳しくなっていたんですよね。
―― サステナブルな会社になるために必要な目標を定めた
当社は設立早期からマスコミに取り上げられていたので知名度はそれなりにありましたが、最初から経営状態が良好だったわけではありません。
当社は工場や店舗といった設備投資に加え、社内で一貫して品質管理やマーケティングも行っているので人件費もかかる、高コスト構造のビジネスです。
このビジネスモデルの中で、みんなにちゃんと還元できて、かつビジネスとしてサステナブルになるためにいくら売上げをだせばいいのか計算してみると、なんと10億円だったんです。繰り返しますが当時の売上げは2.5億円程度です。
ここで諦めていろいろなことを切り離してビジネスを小さくして続けていくか、あるいは10億円をめざすかの二択で、僕たちは後者を選びました。
4つのビジョン(ソーシャルビジョン、ブランドビジョン、オーガニゼーションビジョン、ビジネスビジョン)とビジネスプラン「Road to 10」を立ち上げました。
「Road to 10」に基づいてロゴを変更したり、ブランドの路線を変更あるいはクローズしたり、出店を続ける一方で採算の取れない店舗を閉めたりしていきました。
―― 目標達成のために経営者としての意識を変えた
「Road to 10」を実施しながら意識していたことがいくつかあります。まずは自分の意識を変えました。それまでの僕は、お客様に喜んでもらいたいという一心でしたが、どうやったら一緒に働くみんながハッピーになるのかを常に考えるようになりました。
それから、「伝える」ではなく「伝わる」を重視しました。この2つには雲泥の差があります。
経営者が思っている以上に、伝えたことって従業員に伝わってはいないんです。僕は毎月の店長会で何度も何度も10億円達成の重要性を説得しました。
必死に働いて売上げ2.5億円のときに10億円めざせというのだから、当然のように反発もたくさん受けました。それでも繰り返し説明し続けて、半年から1年も経つと本当に業績が少しずつ上がっていったんです。
また、昨日よりも今日、今日よりも明日がちょっとでも良くなるように努めました。社会の閉塞感は未来が悪くなるという不安から生まれます。だからこそ、僕は絶対に未来は良くなるという絵を描き、具体的なアクションとして「Road to 10」の1年目にボーナスをみんなに出しました。
最初の年、もちろん10万・20万円なんて無理でしたが、全員に3千円ずつ、しかもちゃんと価値のあるものだと思ってもらえるようにポチ袋に入れてメッセージも添えました。ありがたいことに今でもこのポチ袋を大切に持ってくれているスタッフがいます。
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