ものづくり

《講演録》副社長が語る!注目の企業マザーハウスの躍進の裏側にある経営哲学とは

2021.04.13

―― 熱い情熱と冷静な思考、この順番が大切

どういう考えをもって会社をここまで大きくしてきたのか?という質問をよく受けます。

僕たちが大事にしているのは「熱い情熱と冷静な思考」で、この順番が大切なんです。主観でゴールを定めて客観でプロセスを構築していきます。
この逆は、市場調査や世間の流行りで目標を決めて、あとは気合と根性でなんとかしよう、というものです。僕たちはこういうやり方はしません。

当社はもともと社長の山口の「途上国の可能性を体現する」というウォームハートからスタートしています。もちろん思いや情熱だけでなんとかなるような簡単な話ではなく、それをどうやってビジネスにしていくかにはクールヘッドが必要になります。

 
―― やりたいことに向かって小さく積み上げる

日本人はともすると「やりたいこと=できること」になりがちですが、本当にやりたいことに向かって小さくてもいいから行動していくことが重要です。

14年前に山口はバングラデシュの小さい工場で、粗削りながらも本当にバッグを完成させました。初年度の売上げは200万円程度でしたが、大事なのは実際にバッグを完成させたということです。

大きな夢をもって、それに向かって小さくても実現していれば、10人に1人くらいは「面白いね」と応援してくれる人が出てくるものです。当時も、思いに共感してくれた仲間たちが僕の家に夜な夜な集まって、バングラデシュ製のバッグをどう売っていくかを一緒になって考えてくれました。

 

 
―― お客様と実際に会って気づかされた

会社の設立資本金はほぼすべてバッグ製造につぎこみました。600個の在庫が倉庫代わりだった僕の家に置かれ、当時は段ボールの山の中に埋もれて生活していました。売れ行きはさっぱりで、自社ECサイトをつくったり飛び込み営業をしたりしても全く売れず、設立から1年で会社を辞めようと考えたほどです。

でも、せっかくならバングラデシュの人たちが一生懸命作ってくれたバッグを売り切ってから辞めたい。そのためにまだやっていないことが何を考えてみると、それはまだ実際にお客様に会っていないことだったんです。

そこでお客様を集めてサンクスイベントを開催しました。もちろん会場を借りられるようなお金はなかったので、お一人当たり参加費5,000円をいただいての開催です。それでも50人ほどの方が来てくださりました。どんな思いでこのバッグを購入してくださったのか、どんな商品であれば購入したいと思うか、という声を直接聞いてものすごく感動しました。

それまで僕は、お客様と企業というのは対立関係にあると考えていて、もっと安くしなきゃいけない・もっと期待に応えないといけない、と思い込んでいました。でもそうではなく、お客様は共に歩んでくれる存在なのだと気づいたんです。

今でもこのイベントは続いていますが、お客様が会社を育てるという言葉はそのとおりだと実感しています。

 
―― 最初のお店づくりも自分たちの力で

初めてのサンクスイベントを機に、お客様と常に会える場所を作ろうと決心しました。とはいえ表参道のような一等地に出店する余裕はないので、入谷にあった配送倉庫を改装して店舗にすることにしました。

ちょうどそのころ、山口がビジネスプランコンテストで優勝して300万円を持って帰ってきたので、それを元手にしたんです。300万円で店舗が作れるわけがないと、コンテストの審査員や小売業界の方々は否定的でしたが、僕たちは知り合いの内装職人さんに木の切り方や丸鋸の使い方を習って自分たちでお店を作り上げました。

僕がゴールドマンサックスのエコノミスト職を辞めて、この会社で最初にやったのは木を切る仕事で、今となっては家具でもなんでも作れます(笑)。そうやって自分たちの力で最終的には250万円でお店を作って、そのお店で一番大きい時で月900万円の売上げを得ました。

できない・できるわけないと思った瞬間に思考は停止してしまいます。インターネットで「お店の作り方」を検索して「内装費用は2,000万円」だと知って、ああ無理だなとなってしまえばそこで終わりです。
そうではなくてどうしたら自分のやりたいことができるかを考え抜くことが重要なんです。

 

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株式会社マザーハウス

取締役副社長

山崎 大祐氏

https://www.mother-house.jp

事業内容/発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・生産・品質指導、同商品の先進国における販売