国産植物由来ナノカーボンで未来のための素材を供給
1メートルの10億分の1という極微の世界で物質を研究し、産業や暮らしに役立つ材料を開発するナノテクノロジー。その技術はスマートフォンの電子回路から化粧品までさまざまな分野で活用されている。
ジカンテクノ株式会社は、これまでのナノカーボン製造の主流であった石油・黒鉛といった化石資源に代わる、国内産植物由来のバイオマスを原材料にした機能性カーボンを開発。
軽くて強く、加工性にすぐれ、高導電性から絶縁性まで柔軟な機能付加が可能な高品質なナノカーボンを、短時間、低コストで大量生産することを可能にした。
使用するバイオマスは焼却処理される農業廃棄物なので、そのリサイクル活用はCO2減少に貢献し、持続可能な開発目標を掲げるSDGsに対応している。同社の技術開発の凄さが発揮されるのは、実はこの後である。
「弊社のナノカーボンの加工プロセスで、研究員が犯したミスがきっかけで混合素材のシリカが分離され、そのことで非常に難しいと言われる、ナノカーボンの基層であるグラフェンの抽出に成功しました。業界的には、ラグビー選手が陸上競技で金メダルを取るような常識破りです」と語る木下氏。
グラフェンは炭素原子1個分の厚みしかない2次元物質で、ナノカーボンの塗料化なども可能にし、今後さまざまな製品開発のキーの一つになる。
木下氏がグラフェンの全面開花として見据えるのは、自動車のEV化が完了するであろう2025年。「モーターの軽量化はもちろん、車内に機能性カーボン配合塗料を使用することでわずかな電力で暖房ができるようになります」。
ナノカーボンの実現する世界はもっともっと広いはず。その活用法を多くのメーカーが探っている。産学官の連携も盛んな分野で、同社には東京大学、早稲田大学などが研究協力している。
「今はうちがつくる“小麦粉”をパンにするのか、パスタにするのか、まったく新しい料理をつくるのか、メーカーさんたちが知恵を絞っている段階」と木下氏。同社にはさまざまな企業から相談が寄せられるそうだが、「どんなニーズであれ、与えられたオファーは、その解決法をとことん試してみる」というのがジカンテクノ社のポリシー。
時代の動きを鋭敏にキャッチするアンテナを伸ばしつつ、東奔西走する木下氏の背後には、社員である優秀な研究開発チームと、世界的なSDGsの力強い潮流がある。
(取材・文/山蔭ヒラク)