自然素材100%珪藻土「深呼吸」でつくる理想の空間
珪藻と呼ばれる藻類の化石が長年堆積してできた珪藻土(けいそうど)。主成分は二酸化ケイ素で、電子顕微鏡でのぞくと無数の細かい孔(あな)が空いている。昔からその高い吸湿性や消臭性、耐火性を生かして壁土に使われてきたが、近年は自然素材への関心の高まりもあって用途が広がりつつある。大西氏はその珪藻土に7、8年前からずっとほれ込んできた。
夫が経営する工務店で珪藻土を扱っていたことがきっかけ。群馬県にある建材メーカーを通じて仕入れていたが、その会社の経営者が亡くなってしまう。仕入れを継続するため同社を直接訪ねて取引継続を訴えたが、この資材がどうしても必要な理由と自社が必要としている珪藻土の効果などを伝えたところ、「それならもっといい珪藻土ができるまで待ってほしい」と言われた。それから2年の月日を重ね、自社にとっても自信作といえる珪藻土ができあがった。これに「深呼吸」と名付け、販売会社として笑緒一(わっしょい)を設立した。
「深呼吸」は、稚内産の珪藻土を1mm角に砕き、生のまま原料として使う。また、樹脂などの化学製品を一切使わず、ホタテ貝の粉末などの自然材料だけで作り上げている。「珪藻土の中でも稚内産は別格。多くの塗り壁は崩れにくくするため焼成し、樹脂を入れるのですが、その分珪藻土の機能は落ちてしまいます」と大西氏。それだけに施工時には繊細な配慮が求められる。同社で講習を受けた左官工と契約し、施工を任せている。
ただ、いくら性能をうたったところで、市場は振り向いてはくれない。そこで、3つのシェーカーの内側にそれぞれ「深呼吸」「他の珪藻土入り塗り壁」「クロス」を塗り、アンモニアを入れてから臭いを比べるプレゼン法を考案し、全国の工務店、設計事務所に飛び込みで営業をかけた。「深呼吸」を入れたシェーカーだけが無臭に変わることに驚く様子や、試験所に通い、不燃、消臭、調湿、抗菌などのエビデンスも次々に取得する様子をSNSでアップした。
そうするうちに、全国にネットワークを持つある左官工が「同業者にぜひ紹介したい」と訪ねてきた。以前に訪問した工務店からは「湿気で困っているお客さんの工事で使ってみたい」と言われ、出来上がりに施主が喜ぶ様子も発信した。
「私自身が子育てをしている主婦なので、生活しながら日々商品を使って実験しているんです。洗濯物も乾きやすいし、生乾き臭もない。私自身がその奥深さに一番はまっているかも」と笑う。コロナ禍で家の環境が見直されたことも追い風になって、注目度も右肩上がり。一般消費者に直接アクセスすべく、子ども部屋に特化したリフォーム会社「キッズウォール」も立ち上げる予定だ。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)