「ないものはつくる」型物発泡体界、最後の配合師
ゴム、樹脂に発泡剤を練り込んでシート状にしたものを金型にはめ熱を加えると、発泡剤が気泡を発生させながら型の形状に膨らむ。こうしてできた発泡体は、緩衝材や断熱材、防音材などとして多くの用途で使われている。
材料選びからその配合比率、使用する薬品まで無数の組み合わせを持つ発泡体の世界で、発泡体と薬品の開発が同時進行で出来て完成までのスピードが速いという強みを持つのが市位氏だ。
顧客からのヒアリングで固さ、用途、使用条件、コストなどを詰めていくうちに「おおよそ8割方の配合はイメージできる」。
ただ、互いが想定している硬さ、軟らかさには差があり、それをすり合わせていく作業が難しい。正確を期すために3種類ほど硬さの違う試作品をそろえギャップを埋めていくという。
単なる知識、経験だけでなくこうしたこまやかさが顧客に信頼される理由だ。
もともとは靴底に使う発泡体を主に手がけ、そこでさまざまな配合を試してはでき具合を確かめ、体に覚え込ませていった。
かつては配合レシピを顧客に無償で提供し、採用された際の原材料の販売で収益を得ていたが、「便利使いされることに悔しさを感じ川下に近いところへ行こう」と決めた。
そこで自ら考えた配合を協力業者につくってもらい、それを提供するビジネスモデルに切り替えた。
そうやってできた協力企業、大学、試験機関などのネットワークを生かし、15年前に立ち上げたのが「ラボイチイ」だ。ゴム・樹脂発泡体に関わるあらゆる依頼を引き受けるワンストップの窓口として多くの依頼が舞い込んでいる。
ウェットスーツメーカーからはゴムアレルギーのユーザーへの対策を相談され、文献を調べ、ゴムアレルギーの研究者に直接連絡を取ってアドバイスを求め解決した。
このほかにも実際の皮膚に近い状態を再現した注射用練習シート、木型に代わって樹脂に卵の殻を混ぜてつくった樹脂の型が携帯電話メーカーに採用されるなど開発事例は枚挙にいとまがない。
近年は、ゴム、樹脂発泡体に、抗菌剤などの機能材を加えるニーズが高まっている。素材が新たに加わると発泡しづらくなるため出番はさらに増えている。
「ないものは作る、できるまでやる」という市位氏の目下のテーマは「最後の配合師」にならないようにするための後継者の育成だ。
(取材・文/山口 裕史)
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