新たな農業の在り方を追求し、社会課題の解決へ
これから伸びる市場は?どんな技術や発想が注目されている?「次世代ビジネス発掘ラボ」では、そんな“これからの可能性”を探るべく、ユニークな取り組みに挑む企業や人にフォーカス。まだ知られていない、でもおもしろい!を発見する連載です。

【Case.1】スパイスキューブ株式会社
代表取締役 須貝 翼氏
「世界中どこでも農業を実現する」をコンセプトに、植物工場をプロデュースするスパイスキューブ株式会社。同社の農業装置「AGROT(アグロット)」は、光合成を促進するLED照明、CO2、水、温度などの栽培環境を人工的に管理し、土を使わず、養分を含んだ水だけで野菜を育てます。
従来の植物工場は多額の投資が必要で、参入障壁の高さがネックになっていましたが、AGROTはコンセント1つと畳1帖分のスペースがあれば設置が可能です。都心部の居抜き物件や、地方で問題となっている空き家など、空きスペースの活用法としても注目されています。
同社代表の須貝さんは20代から30代にかけて会社員として働く傍ら、林業や農業のボランティアを行い、経験を積んできました。そこで目の当たりにしたのは、農業を取り巻く厳しい現実でした。
「毎日畑に出ても、農産物の価格が安すぎて収入が上がらない。どれだけ手間暇をかけても、天候に左右されて台無しになることもある。後継者不足は深刻で、高齢化も進んでいる。国内食料自給率もあがらない。いくつもの社会課題を肌で感じていました」。

小規模なプラントでも400種以上の植物を栽培できる。
「農業をもっと報われる仕事にしたい」という想いから、2018年に起業。同社の栽培ユニットはメンテナンス性の高い形状で、移設・増設もスムーズです。無理な姿勢や重い荷物を運ぶ作業もほとんどないため、就労支援作業所や、飲食店内で観葉植物としての役割を兼ねた自家栽培としても取り入れられています。
近年では、プロの料理人が求める希少価値の高い野菜やハーブをパッケージ化し、カフェやホテル内レストランに直接販売。安定供給が可能であることに加え、味や栄養価に優れ、異物混入がなく洗浄作業が短縮できる点が、外食産業から高く評価されています。

室内栽培によって、農業の省力化、安定化、高収益化をめざす。
さらに、栽培した野菜の廃棄を防ぐため、買取もスタート。「工業的な農業は生産性が高く、余剰在庫も生まれやすいです。そこで、当社の販売網を活用し、生産野菜の買取サービスを開始しました。
フードロスを減らしながら、適切な利益を出せるようサポートしていきます」。需要に応じた野菜をつくり、売価や販売方法、流通経路を設計することで、「売れるビジネスモデル」を構築し、農業を未来へとつなげていきます。

畑で120日ほどかかる葉物野菜が、約40日で収穫可能。
同社ではエンドユーザー向けに、アップサイクル素材を用いたミニ栽培キットなど、新たな商品の開発にも取り組んでいます。
良質な野菜をつくることは、もはや当たり前となりました。今後も積極的にチャレンジしながら新たな農業の在り方を追求し、多くの社会課題解決をめざしています。
(取材・文/北浦あかね 写真/福永浩二)
<Bplatz編集部 取材メモ>
現場で感じた課題を出発点に、テクノロジーで農業の構造そのものに挑む須貝さんの姿勢には、次世代ビジネスの本質が詰まっていると感じました。単なる装置開発にとどまらず、「売れる仕組み」まで設計する視点が非常にユニークです。現場起点のイノベーションにこそ、持続可能なビジネスのヒントがある――そんな確信を持てた取材でした!