失敗した40年前の挑戦が、最新技術の礎に
接着剤やシールなどが貼り付かないようにする「耐摩耗性非粘着コーティング」という独自技術を持つ、日本鋳造技術研究所。
非粘着はもちろんのこと、同社が得意とする“溶射技術”で下地そのものの硬度を上げ、なんと“鋼の6倍”という強度を誇る。そのため、剥がれ防止や長寿命化といった効果を併せ持つことが特徴だ。
では実際、どのような場面で“粘着しない”技術は使われているのだろうか?
「例えば、工場でのラベル貼り。貼り付ける側のマシンの方にひっついてしまうと、製造ラインに多大な影響を与えてしまいます」と説明をしてくれたのは、耐摩耗性非粘着コーティングの発案者、代表の平戸氏だ。
「2012年に大阪産業創造館主催の展示会に参加した際に、数多くの企業が“非粘着”で解決できる問題に悩んでいることを知り、早速取り組みました」と、開発に至ったきっかけを語る。新技術の源は、40年前の失敗事例に遡る。
当時、熱によって酸化してしまうカーボン素材を覆うという溶射に挑戦した同社だったが、微細な穴が出来てしまい酸化が止められないため、断念したという。
しかし、その微細な穴が非粘着のキーに。失敗から得た知見を活かし、約2年の開発期間を経て、新技術を生み出した。
次に挑むのは、この新技術の普及だ。まずは、展示会に積極的に参画。すると、さまざまな業種の企業から「こんなことは出来ないだろうか?」と、相談を受けた。
新技術を用いて課題を解決に導き、開発から2年、スタート時から数えると4年で『耐摩耗性非粘着コーティング』のビジネスを軌道に乗せることができた。
しかし、それで終わらないのが同社だ。販売チャネル拡大に向け、ホームページをリニューアル。SEO対策も含め、サイトをBtoB向けに特化させ、メルマガも発信する。
PR策は功を奏し、ネットからの問い合わせは増加の一途をだどっている。
高い品質のみならず、コスト面でも同社の耐摩耗性非粘着コーティングは選ばれている。相談を受けた企業に見積もりを出すと「この価格で可能なんですか?」と驚かれることも多いという。
溶射とコーティングを一貫してできるという、同社ならではの強みを活かし、高品質かつコストダウンを実現する。現在、“200度の耐熱温度を、500度程度にまで引き上げる”など飽くなき探究心で開発を推進。さらなる高みをめざす。
「今はBtoBがメインですが、もしかしたら料理をする時にひっつかないナイフや包丁といった、一般家庭向け製品にも応用できるかも知れませんね」と、平戸氏。
これからも同社は、フラックスと溶射という2つの既存事業で、安定した収益を重ねながら、『非粘着』という新技術を武器に、未来を見据えて新市場に鋭く切り込んでいく。
(取材・文/仲西俊光)