会社の夢は、語れば必ず届く
印刷表面加工用資材などを扱う「塗料の総合商社」として、110年を超える歴史を持つ株式会社ビー・エヌ。
同社の長年の悩みは人材採用だった。従来はハローワークを通じた採用が主だったが、ここ数年は、求人を出しても「反応ゼロ」という事態に。
そこで高卒者の採用も検討したが、どの業界も人手不足とあって、優秀な人材はことごとく大手企業へ就職してしまう。そこで、大学の新卒採用に望みをかけることにした。
実は同社は、新卒採用を行う少し前から、中長期のビジョンや経営計画の策定を行っていた。そして、ビジョンや計画を実現するには、若い力が必要だという結論にいたっていた。
そのため、「ホームページも面接も、たどたどしかったかもしれないが、『何を伝えるか』で困ることはなかった」と馬場氏は振り返る。
馬場氏の思いは確実に学生の胸に響いた。
このとき、採用サイトからエントリーした学生は約80人に。そこから採用にたどり着いた重信氏は「社長の思いがすごく伝わり、『詳しく話を聞いてみたい』という気持ちになった」と言う。
また、面接などでは、「10年経ったら、若手を育てる仕事を任せたい」と馬場氏から伝えられた。そのため、「自分の将来の姿や、そこから逆算して『いつまでにどうなっておくべきか』をイメージすることができたのも良かったです」と振り返る。
会社の将来像やそこにかける思いが、求職者の心を動かしたのだ。
もう一つカギとなったのが、会社の“小ささ”だ。大企業と違って中小企業では、1人で複数の役割を掛け持ちすることはごく一般的。馬場氏はそのことを、「申し訳ないけれども」という前置きをしたうえで、包み隠さずに伝えていた。
ところが、今年春に入社した久保氏は、「いろんな仕事を覚えることができて、むしろ魅力的な職場」と受け止めた。
「私たちがデメリットだと考えていたことを、逆にメリットだととらえてくれる人もいます。新卒採用を通じて、中小企業だからといって卑下する必要はないことを学びました。自信を持って、自分たちのありのままの姿を伝えればいいと思います」。
若者の柔軟な発想や豊かな行動力が加わった同社は、取引先から「会社が明るくなった」と言われるように。
この流れを継続させるべく今後も定期的に新卒採用を行い、若手もベテランも一丸となってビジョンを達成することが、いまの馬場氏の目標だ。
(取材・文/松本守永 写真/藍郷心太朗)