原石を探り当てる「サッカー好き採用」
集客につなげるWebサイトの制作を手掛けるクレアネットの採用には「サッカー好き枠」がある。
テストもなければ、志望動機さえも問わない。面談時はスポーツシューズ持参で、近くの公園でボールを蹴る機会を設け、サッカー熱が伝われば即採用決定だ。
谷氏をはじめ同社の社員にはサッカー経験者が4人いる。「サッカー好きという共通項があればお互いのことを知る近道になり、チームワークをもって仕事ができる。一緒にプレーをすれば性格もわかり指導もしやすい」と谷氏はその効用を説く。
数多くのWeb制作会社との差別化のためユニークな採用方法を始めたが、それにはきっかけになった出来事がある。8年程前、1人の社員を残して、全員が退職してしまったのだ。
業績を伸ばすことばかりに目が行き社員への目配りがおろそかになっていたことに気付き、顧客と協力会社、何より社員を大切にする「ハッピートライアングル」という会社理念が生まれた。
特に重視するのが社員の体験の場づくりだ。毎年の海外旅行、山登り、マラソン参加…。「一つの船に乗って仕事をしているという一体感を覚える機会になることはもちろん、実感を持って経験したことを仕事のヒントとして生かしてもらう目的もある」。
サッカー好き採用枠で入社した営業担当の原田氏は「体験は営業トークにも役立っている」と話す。
創業から11年が経過。社員数は20人を超え、若い社員との世代間ギャップも痛感するようになった。
自らの熱い想いを押し付けることは「パワハラにもなりかねない」と自虐的に語る谷氏。今年の社員旅行は韓国、北朝鮮の南北境界線ツアーを主張したが女性社員に総スカンを食らい、「行かない組」「国境線組」「台湾組」「国内組」に分けた。
それよりショックだったのは、入社面接で他の面談者がすべて不採用を主張する中、強硬採用した社員が3日で辞めてしまったことだ。「1%の可能性に懸ける僕の考えが甘かったようです」としょげるが表情はいたって明るい。
大切にしているのが「出藍の誉れ」という言葉。「若くても僕をどんどん超えていってほしい。そしてこの会社に入れたからこそ成長できたと感じてほしい」。
今年には本社以外の拠点として東京、和歌山に新たな営業拠点を設けた。「土地によってビジネスも商品の売り方も異なる。仕事でも体験しながら自分を成長させていってくれれば」。
探り当てた原石をまたそこからどう磨きあげるかについても谷氏の想いは尽きない。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)