《講演録》心づくしの採用が起こした奇跡〜ほぼ素人・味方なしから始まった人事・採用改革記【前編】
▶子どものいる女性の中途入社は前例がなく、人事部もなし。冷たい視線の中で、風土改革から着手
私が小川珈琲初の人事担当として入社したのは1990年でした。女性は高卒で入社し、結婚したら辞めるのが当然の風潮の中、中途入社で子どもまでいる。周囲の目は冷ややかで、先代も大反対だったと聞きました。
朝礼で挨拶をしたら、社長との関係を疑われ、デスクさえ用意されていない。人事部はなかったので引き継ぎもなく、何もわかりません。昼休みにやっぱり無理だと現社長に伝えましたが、何かと用事を作ってくださって翌日も出社しました。
四面楚歌の状態でしたが、工場に行ってパートさんと一緒に作業をするなど、自分からコミュニケーションを取るようにしていきました。
最初に与えられたミッションは、「風土改革」でした。派閥がいくつもあり、いがみ合う社員たち。「おはよう」「お疲れ様」「ありがとう」という簡単な挨拶さえなく、パワハラ・セクハラが蔓延していました。
そこで、一人ひとりと面談をすることに。店舗も含めて80人くらいの社員から少しずつ本音を聞き出し、ガス抜きができたことで前向きな言葉が増えていきました。
次に手をつけたのは、挨拶の習慣付けです。風土の再構築は、人間関係の再構築から。挨拶されて怒る人はいません。当たり前のことを徹底しました。小さなさざ波だったのに、いつしか会社が変わるほどの大きなうねりにつながったと思います。
ところが、私自身は、この頃原因不明の病気に。体を壊してまで続けたくはなかったので、辞めようと思いましたが、「原田さんが来て会社が変わった。元気になってまた出社してください」というハガキをもらい、思い直しました。
>>>《講演録》心づくしの採用が起こした奇跡〜ほぼ素人・味方なしから始まった人事・採用改革記【後編】に続く
(文/衛藤真奈実)
原田 英美子氏(小川珈琲株式会社 社長室室長)
大学を卒業後、建設会社での社長秘書勤務を経て1990年に小川珈琲に入社。管理部課長、人事部長を歴任後、2017年から現職。認知度が低い企業への就職希望者が少なく、まだ採用経験の浅い時代に新卒採用の担当を任されるも、社内の風土改革・採用活動の全国行脚・オリジナルの研修プログラム開発などを推し進め、20年間連続で内定辞退ゼロという同社人事の礎を作り上げた。最近では、「採用のノウハウ」「おもてなしのあり方」などをテーマとした講演を各地で行っており、現場を理解した歯切れのよい話は、持ち前の明るさと相まって好評を博している。