Vol.17 大阪市のものづくり産業で最大の集積分野である“金属製品”に集中特化している「港区」
大阪市のものづくり産業を業種別に捉えるとして、最も集積が厚い分野は何でしょうか?どういう指標で捉えるかによって異なりますが、最も一般的な指標は事業所数と従業者数の2つと言えましょう。
そこで、市全体に関して、業種別シェアをその2指標に関して算出し、事業所数シェアの高い順に並べ替えてみました(図1)。
この結果、ともに最大なのは金属製品(事業所数シェア:19.8%、従業者数シェア:16.0%)で、次いで印刷・同関連業(13.8%、12.1%)となり、これら2業種はいずれも10%以上のシェアを誇ります。
事業所数シェアで第3位の生産用機械器具は、従業者数シェアでは第5位となります。逆に、従業者数シェアで第3位の食料品、第4位の化学は事業所数では、第9位と第15位にそれぞれ位置していることから、ともに平均的な事業所規模が大きいことを示しています。
他方、繊維工業は事業所数シェアでは8.0%ですが、従業者数シェアでは3.9%に過ぎず、事業所規模が小さい業種と言えます。
こうした業種別特徴を有する大阪のものづくり産業ですが、今回は集積自体の大きさに着目するのではなく、上記のような主要産業分野への集中度に着目して区別に分析します。
そこで、事業所数のシェアで第1位~第11位までの業種を対象に、24区について、事業所数と従業者数の業種別シェアをそれぞれ算出し、各区の業種別シェアの最大値が20%以上となる区を抽出してグラフ化してみました(図2)。
事業所数シェアでのトップは港区で、金属製品が43.6%に達します。次いで、天王寺区の印刷・同関連産業が40.6%と続きます。従業者数シェアでのトップは天王寺区で、印刷・同関連産業が46.7%を占め、金属製品でのトップは港区の42.6%です。
また、これらの図を見ると、図1の上位2業種(金属製品、印刷・同関連産業)のどちらかが、各区で最大シェアを誇っているケースが殆どであることがわかります。
例外は、事業所数シェアに関しての都島区(繊維工業:22.8%)と、従業者数シェアに関しての、大正区(鉄鋼業:34.3%)、住之江区(食料品:22.9%)および住吉区(食料品:21.2%)の4つのみです。
また、傾向として、印刷・同関連産業がトップとなっている区は大阪メトロの御堂筋線沿いの区が多いのに対して、金属製品などがトップとなっている区はベイエリア周辺の区が多いことが指摘できます。
それでは、なぜ港区にこれほどまでに金属製品に特化して工場立地しているのかについて考察します。
今や大都市内の公共交通は地下鉄や私鉄が中心となりつつありますが、日本初の市営路面電車は大阪市が発祥です。その区間は今の大阪港である築港桟橋と花園橋(西区九条新道)で、明治36年、築港大道路の中央部に敷設されました。
軌道はもちろん、それらを繋ぎとめる部材は金属製品であり、また、車両自体の中心部材も金属製品から成り立っています。
また、“港”区の名称の原点である港には、外国貿易船だけではなく、港から需要地への物流を担う内航船も活発に往来するわけで、そのためのインフラとなる埠頭や倉庫群の整備が不可欠であるとともに、港から市内へ輸送する貨物線(臨港鉄道)など様々な物流関連産業が必要となりました。
そして、その輸送機械や小型船舶などの製造でも金属製品が主要部材を構成します。
このように、“港”ならではの都市機能を発揮するためにも金属をさまざまな用途に加工・製作する産業や技術が不可欠であったわけで、それが今日の集積のベースとなったと考えられます。
なお、金属製品シェアで港区に次いでシェアの高いのは西区ですが、大正14年に実施された港区の新設に際して、西区の一部を港区に分割した歴史を有しており、その意味では類似の産業構成となっていることも納得できるのではないでしょうか。
(取材・文/大阪産業創造館 徳田裕平)