ものづくり

没られても、パクられても、好きだから

2019.08.22

アイデアを売るビジネスを30年続けてきた佐古氏の“最新作”は、ピカっと光るポスター、商品名「ピカポス」。ポスター全体を光らせるのではなく、目立たせたい絵や文字だけを光らせることができる。

心斎橋筋商店街であらゆる店のポスターを見て回るうち「どれもひと目で情報が入ってこない」ことに気づき着想した力作。ポスターの後ろに遮光処理を施し、光らせたい部分だけを遮光を外し背後からLEDを当てる仕組みだ。

「昼間くっきり見える強い輝度と光が広がるLEDを探し出すだけで半年かかりました」。これから各方面に売り込んでいこうとしている。

 
実家が商売をしていたため、もともと独立志向が強かったという佐古氏。電池の開発者として勤務していた大手電機メーカーを27歳で退職した後は、文具メーカー、樹脂商社など4社での勤務を経て、目標通り40歳で起業した。

当初は商社時代の顧客だった企業のブローカーとして電気製品の製造に必要な部材をまとめて調達する仕事からスタートしたが、徐々に「顧客の抱える困りごとを解決、提案する仕事」へと転じていくことになる。

中でもビデオや携帯電話向けに開発したバッテリーパッケージ部品は装着のしやすさが評価されピーク時は月産350万個を記録した。

パチンコ店向けのプロモーションに使われている旗立て

 
ただ提案しても採用されるのは「十に一つ」。痛い目にも何度も遭った。

ベンチャー企業からの依頼で開発した墨出し器は開発費だけで数千万円を要したが、いざ費用を請求すると「支払う余力はない」。泣き寝入りするしかなかった。

提案したサンプルとそっくりのものが電機メーカーから新製品として出されていることもあった。
担当者に問いただすと「下請けにサンプルは見せたからそこがパクったのかも」と罪をかぶせた上に「訴えるなら訴えたらいい」とすごまれた。訴訟費用など出せないことを知ってのことだ。

「他にもぎりぎりのところを狙って確信犯でパクってくる会社もある」とアイデア1本で生き抜いてきたからこその苦労の数々を語る。

墨出し器 Mr.BEAM

 
現在はパチンコ店向けのプロモーションに使われる小物を提案することが多い。今使われているものをどう改良したらより便利になるか。そしていかに少ない金型でつくれるかなどコストの視点も忘れない。

赤外線人感センサー、傾斜角度測定装置など独自に開発したものの日の目を見ない商品も数知れず。「でも考えることが好きなんです。自分が開発したものが何かの役に立つなら、と。もう趣味ですね(笑)」。

 
過去のピーク時の年商越えを再び、の目標は今も捨てていない。発想のヒントは「違和感を大切にすること」と佐古氏。今日も商品のヒントを探し、頭をひねる。

佐古 秀敏氏

(取材・文/山口裕史)

サミューズ

代表

佐古 秀敏氏