Vol.15 ゆったりとした一戸建て住宅が依然として建築されている「阿倍野区」
大阪市の人口は2000年以降、増加傾向が持続しており、19年6月時点では273万6千人に達しています。
人口増の要因は、転入が転出を年間2万人程度上回っているためであり、少子高齢化でマイナスが拡大する自然動態を補っているからです。
転入需要に効率的に応えるためには、マンションが適しており、共同住宅の新設着工戸数は18年度に初めて3万戸を超え、専用住宅の着工戸数に占めるマンション割合は87.8%にまで上昇しています。
他方、一戸建て住宅の新設着工戸数は、この5年間、4千戸前後で推移していますが、その割合は11.4%にまで低下し、2011年度と比べて10ポイントも低くなっています。
それでは、今でも、戸建て住宅がある程度のボリュームで新築されているエリアは市内のどこなのでしょうか。
2011年度から18年度にかけて、年平均で200戸以上の戸建て住宅(新設、専用)が着工されている区は、市内東側でJR環状線外側の10区(東淀川、淀川、旭、鶴見、城東、生野、阿倍野、平野、東住吉、住吉)であり、市内の戸建て総戸数の2/3を占めています。
また、戸建て割合は淀川、東淀川、城東を除く7区では30%前後となっており、大阪府全体と同水準にあります。
また、住宅・土地統計調査によれば、2013年10月時点において、区内全戸数に占める一戸建て住宅の割合は、上記の7区では29~43%となっており、近年の新設割合はそれとほぼ同水準にあることがわかります。
次に、一戸建て住宅の平均床面積に着目します。10区の8年間の平均は118.3㎡/戸ですが、阿倍野区のみ突出して広く、129.5㎡もあり、第2位の住吉区/120.2㎡とは歴然とした差があります。
全国的に住みやすいと言われる北陸の戸建ての平均面積は、福井/130.8㎡、富山/130.7㎡と全国1、2位にあることと対比すれば、阿倍野区の戸建ての広さは大都市大阪にあっても、住みやすい住宅地の条件を満たしていると言えましょう。
また、住宅地の住みよさや利便性の評価は、総合的に地価に影響すると言えます。
そこで、先ほどの10区に関する住宅地の平均公示地価(2019年1月時点)を見ると(図1)、ここでも阿倍野区が突出しています。
残る9区が20万円台前半にとどまるなか、阿倍野区の324千円は、JR環状線内で最も低い浪速区/369千円に次ぐ水準につけています。
このような背景要因として、用途地域の指定があります。
大阪市における区別の用途地域別面積は公表されていませんが、良好な住居環境の維持・形成に向けて指定される第一種低層住居専用地域に着目して阿倍野区をみると、区内の北側・東側を中心に同地域が広く指定されており、区全体のおよそ3割近い面積割合を占めると目視されます。
以上を総合すると、阿倍野区の住宅地としての評価は依然として良好な状況にあり、住みやすい住宅地を抱えるエリアとして、今後とも持続されることが期待できましょう。
およびその変動率
(取材・文/大阪産業創造館 徳田裕平)