大阪発の技術を世界で問う、試作品塗装・調色のプロ
家電量販店にデビューした新製品、百貨店のエントランス付近を彩る高級化粧品。メーカーが設計したそれらの製品のルックスや手触りを、誰よりも早くカタチにする。プロダクトシーンにおけるそんな影武者の一人が、創業14年の株式会社MIXER。試作品づくりの最終工程、調色と塗装のプロフェッショナルだ。
メーカーから支給されるCADデータを、3Dプリンターや切削マシンで造型。指定された見本や色番号をもとに、メーカーのデザイナーと話し合いながら、目の前で顔料を調合し、調色する。必ずしも指定色どおりに仕上げることが正解ではなく、「デザイナーがなぜこの色を出してきたのか。その意図を汲みとるのが調色・塗装のキモ」と松本壱基社長。見た目の色合いと、さらには手にしたときの感触までもが成果として問われる。若い頃は音楽家をめざしたという松本氏の芸術的なセンスが、きわめて繊細な同社の技術に生かされているようだ。
しかも、美しく仕上げたから良い、とはならないのが試作品づくりの奥深さ。「現実的な仕上がり感が大切なんです。つい職人気質を発揮してキレイに仕上げすぎて、『量産したら、こうはならない』と、よくデザイナーに叱られました」。
高度な熟練と感性が求められる世界だが、この仕事の最大の厳しさは時間との戦いだという。一製品の調色は最短で30分、長くて数時間。発注者側で会議や撮影などのスケジュールが細かく決められており、試作品づくりが遅れると全体のプロセスに狂いが生じるからだ。プレッシャーに耐えられず撤退した同業者は少なくないという。
厳しさに比例し、喜びも大きい。「いい物ができると、梱包を開いたときにデザイナーの表情が変わります。試作を手がけた製品のCMや、実物を店頭で見たときも嬉しいですね」。
次なる飛躍へ向け、同社が見つめるのは関東圏への進出。そのためにホームページをリニューアルし、東京での見本市へも出展した。「うちの技術が全国的に、また世界的に、どのくらいのレベルなのかを知りたい」と、働き盛りの創業社長は謙虚なチャレンジ精神で前を見つめる。
(取材・文/山蔭ヒラク)
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