医療×ビジネスでオーラルケアを広めたい
「子どもが泣き叫んだらどうしよう」「うちの子、じっと座っていられるかしら」―― 小さな子を持つ親にとって歯医者は不安だらけ。
そんなお母さん、お父さんの悩みに応えるのが小児歯科オンライン見守りサービス「ブラシる」だ。登録(月額980円)すると、小児歯科医にオンライン上で子どもの口と歯の悩みに関する相談ができる。
開発したのは、歯科医師の竹山氏とMBAホルダーの廣瀬氏という異色のコンビが共同代表を務めるNOVENINE(ノーブナイン)。両氏は大阪産業創造館主催の講座「創業チャレンジゼミ」で出会い、2018年1月に起業した。
竹山氏は臨床に携わりながら、コロンビア大学や京都大学iPS細胞研究所で唾液再生の研究を続けてきた。健康寿命の延伸など日本の医療課題に歯科医療を通じて貢献するのが研究の目的だが、その成果を臨床現場に落とし込むまでには歳月を要する。
「正しいオーラルケアの方法をいち早く、多くの人に届けるためには事業化が不可欠」と考え、講座に参加した。
一方の廣瀬氏は大手製薬メーカーで研究開発に従事し、臨床試験の計画立案から実行まで担ってきた経歴を持つ。MBAを取得するなど事業家としての道にも興味があり、起業について学ぶために講座に参加。
「当初は異なるビジネスプランを考えていた」という廣瀬氏に対する竹山氏の第一印象は、「やたらデカくてプレゼン力も飛びぬけたやつがおるな」ということ。「その廣瀬を僕が一本釣りし、口説き落として会社を一緒に立ち上げたんです(笑)」。
そう話す竹山氏が臨床現場で常々感じてきたのは、日本人のオーラルケアに関するリテラシーの低さ。「虫歯や歯周病は、口に関する正しい知識を持ち、適切に歯磨きをすることで防げるんです」(竹山氏)。
スマホの登場で人びとのライフスタイルが一変したように、「歯科医療にテクノロジーを掛け合わせれば、オセロをひっくり返すようにオーラルケアの大切さを社会に広められるのでは」との思いで頭の「ブラシる」を立ち上げた。
「マイナス一歳からのオーラルケア」をテーマに掲げ、“マイナス一歳=子を持つ前の親”の教育に主眼を置いている。
さらに同社では一人ひとりに適したオーラルケアグッズを定期配送するサービスを予定しているほか、大手製薬メーカーとアライアンスを組んで「スマート歯ブラシ」も開発中だ。
IoT(モノのインターネット)で歯ブラシとスマホを連動させ、歯磨きのデータを記録・分析することで、医科歯科連携による予防医療や先制医療につなげるのが狙いだ。
「私たちの強みは医療とビジネスに精通したふたりがコンビを組んでいること。ビジョンの追求とマネタイズの確立を同時にめざしていきたい」と両氏。
起業をめざす人には「行動すれば必ず道が拓ける」「各分野で活躍している人に相談するのが大事。起業を後押しするヒントを与えてもらえますよ」とエールを送る。
(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)