アート×サイエンスで世界中をカッコよく面白くしたい

「病院の待ち時間が、絵画の鑑賞時間になりました」―― 。定額制絵画レンタルサービスを展開する株式会社Casie(カシエ)代表の藤本氏は、作品を貸し出している病院で患者さんから伝えられたひと言が心に残っている。

「定額制絵画レンタルサービス」とは、同社と契約するアーティストの原画作品を月額5,300円/1点で借りられるサービスのこと。約300名のアーティストが手がけた3000種類以上の原画の中から好きな作品を選んで飾ることができ、年4回まで作品の着せ替え(取り替え)が可能。

現状は法人客が多く、病院や介護施設、マンションのエントランス、会議室、美容院など200の施設や店舗で利用されている。

藤本氏は芸術家の父を持ち、アトリエで絵を描く父の姿を見て育った。ところが小学5年生のとき、35歳という若さで父が他界。「僕は父とそっくりで、においまで似てるんです。だから自分も35歳までしか生きられないと本気で信じていました」。

そう打ち明ける同氏の心境に変化が出てきたのは大学卒業後、大手コンサル会社でバリバリ働いていたとき。「30歳を過ぎた頃から、35歳を超えられるんちゃうかと思うようになって。するとサラリーマン生活が不安になってきたんです」。

当時の年収は「おそろしいほど」高く、生活は「めっちゃ安定」していた。しかし35歳からの未来を描いたとき、「自ら稼ぐ術を持ち、妻と3人の子どもを守りたい」と思うようになった。そこでふつふつとわき上がってきたのが、かねて構想していた絵画レンタル事業の立ち上げだった。

父は生前、絵描きだけでは家族を養えず、意に沿わない仕事で糊口を凌いでいた。調べると、現在も芸術活動だけでは生計を立てられないアーティストが80万人(自社調べ)もいるとわかった。

「才能ある若手アーティストに創作活動を諦めてほしくない」―― 同じ志をもつ創業メンバーの清水氏、小池氏と共に2017年3月に起業後、定額で絵画を貸し出し、レンタル料や販売料の一部をアーティストに還元する仕組みをつくり上げた。

創業メンバーの藤本氏(中央)、清水氏(左)、小池氏(右)

ビジネスが軌道に乗るまでの道のりは険しかった。原画を集める仕入れに7ヶ月、資金が底をつくギリギリの状況で顧客開拓に奔走。「電気代すらもったいないから冬場は毛布をぐるぐる巻きにし、明るい窓際にPCを置いて仕事をしていました」。

ようやく単月黒字を達成したのは、起業して1年以上経った18年7月。「ここ(黒字化)に来るまでどれだけかかったか…。この気持ちを忘れたらあかん、そう胸に刻んでいます」。

今年、父が生涯を終えた35歳を迎えた。もっともそれは人生の、ビジネスの次なるスタートラインに過ぎない。目標は「100万枚の原画を世界中に飾る」こと。

「アーティストは自己プロデュースが苦手。作品を生み出す芸術家(=アート)に僕たちのプロデュース力(=サイエンス)を掛け合わせ、アートで世界中をカッコよく、世界中を面白くしたい」。

藤本氏のこの思いは、すでに病院の待合室を美術館に変え、オフィスや会議室を創造空間に変えていっている。

代表取締役社長CEO 藤本 翔氏

(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)

2018年10月02日
株式会社Casie
代表取締役社長CEO  
藤本 翔氏
事業内容/定額制の絵画レンタルサービス

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