【対談】世界一になるためにつくりたいものをつくる
言い知れぬ不安を乗り越えた先にある達成感を求めて、自分がつくりたかったものを世に問う。ものづくりの世界に身を置く者だけが味わえるぜいたくだ。
卓越した技能を認められ、「大阪テクノマスター」に認定された川合氏、「なにわの名工」として表彰された高本氏。工具、靴と舞台は異なれど、ものづくりにかける気概は重なる。二人のほとばしる思いがぶつかった。
―何をつくっているのですか?
川合 職人が使うドライバーやペンチなどの手工具をファブレスで企画・製造しています。主力商品は溝がつぶれてはずせなくなったネジをはずすための工具「ネジザウルス」です。
高本 靴づくりの分業体制ができあがっている生野で靴を企画・製造しています。主力ブランドは「リゲッタ・カヌー」で、コンフォートシューズやサンダルを手がけています。
―主力商品、ブランドが誕生した経緯は?
川合 当社はもともと工具メーカーから仕入れた工具の持ち手部分などをアレンジし当社仕様にして販売する会社でした。
ユーザーからの声を拾い上げてみると、はずせないネジをはずす工具が欲しいというニーズが多いことがわかり、開発に挑みました。ゼロからペンチづくりを始める苦労はありましたが、まったく新しい工具の市場を作りだすことができました。つくった製品を守るために特許の取得にも力を入れました。
高本 かつては売れ筋商品をいち早く見つけてはそれを真似て安くつくることに徹していました。そうしたら真似をした先から内容証明を問う手紙が届きました。そのとき、人真似でメシ食ってる自分がダサく思えて、オリジナルの靴をつくろうと決めました。
我流で木のブロックをのみで削りながらできたのが「ビッグフット」というサンダルです。売れるかわからないものに20万円の特許料は高かったけれど、自分がつくったものを大事に思えるならと特許をとりました。
―売れる自信は?
高本 靴づくりに没頭しすぎて倒れた時に、悔いのないよう自分のつくりたいものをつくろうと思いました。まずどんなシーンで履いてほしいのかを考えました。
ちょうど第1子が生まれた時で、この子と家族3人で履ける靴をつくりたいなと。それで丸くて可愛いおしゃれなデザインを突き詰めました。売れようが売れまいがかまへんと開き直って。できあがった時には「こんなん売れるわけない」と皆に笑われました。
川合 一緒です。工具って人間の手の延長として対象物をどうにかしようとする道具なので、シンプルにしようとすればするほどどれも同じような形になるんです。
だけど僕はパッと見て特徴のあるものをつくりたいと思って社長に頼み込んでデザインを勉強しました。出来上がったものをプロのデザイナーに見てもらったら「無駄が多い」と鼻で笑われました。周りの反応もさんざんでした。
―それが売れ出したのはなぜ?
高本 靴業界の展示会に出しても実績をまず問われる。靴店に並べても販売員がつかないから良さを説明できない。それで特徴をしっかり伝えてくれるところはどこだろうかと考え、通販番組と雑誌に売り込みました。
それを見て店が置いてくれるようになりました。買いたい人は実際に履いてみたいので店へ行く。その循環ができてじわじわ売れていきました。伝えることの大切さを知りましたね。
川合 グッドデザイン賞をもらうことができて実績ができた頃に、ちょうどメディアにも取り上げられる機会があり売れ始めました。
それ以降は、機能とともにガンダムを彷彿とさせるような男心をくすぐるスタイリングを重視しました。ぼくの中では「かっこいい」がすべてに通じるコンセプト。自分がかっこいいと思うものでなければ愛してもらえないと思っています。ただ、売れるかどうかは店に並ぶまでわからないのでいつも不安ですが。
高本 そう、決戦前夜という感じですよね。全員に共感してもらおうと思うとあたりさわりのない商品になってしまう。この人に届けという強い思いがあって、それをわかるという人が集まってくれたらそれだけで力になります。
最近思うんです。ぼくらは楽しく歩ける人を増やすために靴をつくっているんやろなと。
川合 ネジザウルスを使うことで、それまで使っていた工具との違いに感動してもらえる人をどれだけ増やせるかを考えています。だから開発会議ではいかにエンジニアらしい特徴が出せているかという基準に照らし合わせてダメ出しをしあっています。ぼくもダメ出しされてばかりですが(笑)。
高本 ぼくは仕方なく(笑)社長やっていますけど、本当は靴づくりだけやっていたい。だから名刺の肩書きは「代表取締役・靴職人」にしています。
川合 僕の仕事はマーケティングから始まって特許を調べてからデザインを考え、構造を設計し、メーカーと話し合って製造しやすい、コストのかからないデザインに落とし込んで、金型を発注して、製品ができたらパッケージのことまでやらないといけない。
ここをやるとここも知らなあかんというのが出てくる。それは使命感みたいなもので。だから職人でもないし、デザイナーでもない。
高本 なんか名前を考えないといけませんね(笑)
―これからの目標は。
川合 うちの工具でカバーできるのは、ネジで困っている人のほんの一部。ネジに関するあらゆる困りごとを解決したいですね。そしていつか「僕にはずせないネジはない」と言いたい。それを言えれば世界一になれると思っています。
高本 7、8年前にアメリカの展示会に出た縁で今東南アジアを中心に輸出しています。もう1回アメリカの展示会にチャレンジして、いつかナイキやアディダスと肩を並べたいと思っています。できない理由はどこにもないから。
うちの靴が売れれば売れるほど、まちの職人のおじいちゃん、おばあちゃんが、孫から「街で履いてるの見たで」とリスペクトされる。そうすれば若い子らがこの業界に入ってくると思うんです。人がいればなんだって出来る。
川合 工具の持ち手をつくってもらっている樹脂成型部品メーカーは、ネジザウルスがテレビで取り上げられると放映時間に社員がテレビの前に並んでいるそうです。ぼくらががんばることでやりがいにつながってもらえるならうれしい。取引先の多くは後継者に悩んでいるところが多いので、一緒にどう伸ばしていけるかも考えていきたいと思っています。
―若い人たちにメッセージを。
川合 DIY文化をもっと根付かせたいと思っていて、まずは自分で修理してみよう、カスタマイズしようということを子どもにも伝えています。
ついこの間も、靴を買ったもののちょっと気に入らないところがあったので、金具と皮革を買ってきて自分好みに仕上げました。修理やカスタマイズしようとすると、それがどのようにつくられたのかを知ることにもなります。
高本 木を切ってお風呂や家をつくるゲームを子どもがしていて、つくるものがどんどん進化していくのがわかるんです。おそらくこのゲームは、子どもたちのクリエイティビティを育てたいと思ってつくったんやろな、と。
「大人になってこのゲームの作者に会えたらなんて言う?」って子どもに聞いたら「ありがとうって言う」と。「それ聞いたら作者の人泣き崩れるぞ」って。子どもには「ゲームで遊ぶ人じゃなくてそれを作る人になれ」と言いました。ムーブメントを起こす側の人になれたら楽しいしわくわくできる。そういうことを伝えたいですね。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)