世の中にない革新的な製品開発に挑む
「バリカー」って何だかわかる人、手を上げて。「バリケード」+「カー」から作られた造語で、歩道などでよく見かる「車止め」のこと。
名付け親は、扉に付随する建築金物を開発していた帝金の創業者、大塚幸三氏である。昭和41年に誕生した地中に収納できる「バリカー上下式」は、今まで世の中になかったものだった。
誰も見たこともないものを売り込むのは至難の業。ならば現物を見てもらおうと、1本20㎏以上はあるバリカーを車に積みこみ営業を始めた。その甲斐あって、モータリゼーションが進む時代にバリカーは爆発的に全国に普及していった。
現在、開発部のメンバーは7人。月に1度の開発会議で絶えず新しいものを考え、提案している。時としてアイデアは意外なとこからヒントを得たことがあったそうだ。
コンビニで売られている和風シュークリームを見て、「バリカーにも和風があってもいいのでは?」と、企画開発グループ長の西分氏は閃いた。展示会で知り合った三州瓦のメーカーとタッグを組み、瓦素材を使った和風のバリカーはこうして誕生した。手づくりなので、文字まで掘れる。
新素材、新技術とのマッチングは、絶えず新しい製品を開発する帝金にとっては欠かせない。
昭和20年の創業以来、世にないものを生み出し続けてきたDNAは今も健在だ。例えば、再生プラスチックを使用した「エコバリカー」は、自動車が当たって曲がっても元に戻る。さらに海辺でもサビない耐候性を誇っている。
支柱全体が光るバリカー「イルミーナ」は、鉄の1.5倍の強度を持つFRPを採用した耐久性に加え、デザイン性が高く、日本の夜の景観に光の演出を可能にした。実はこれらの製品も、カタログだけではなかなか理解してもらえないため、今でも現物持参で営業展開することで成果を上げている。
今後の目標は、東京オリンピックに向けて景観と実用性を兼ね備えた光るバリカー「イルミーナ」の全国展開。そして、イギリスの「ATGアクセス社」と業務提携し、トラックが突っ込んできても、停止するテロ対策用ボラードの販路拡大を目指している。
建築金物で開拓してきた販売ルートを活用し、公共事業で採用されるために、どこで何が建設されているかをいち早く掴み、自治体、設計事務所、建材販売会社に製品を提案している。
人々の安全を守ってきた帝金は、顕在市場ではなく、常に潜在市場の発掘をめざし、今までに見たことのない製品を世に送り出すために、日夜努力を積み重ねている。
(取材・文/湯川真理子)