試練は天が与える剪定
太い枝をザックリ切り落としたのは、スマホの普及だった。
笠間社長が、父親の急逝でDM封入・発送代行の家業を継いだのが18年前。中堅商社からUターンした同氏にとって、パートの主婦を働き手とする仕事は勝手がわからず苦労の連続。それでも、こぞってカタログ販売に力を入れる通販業界の活況を追い風に、業績は右肩上がりを続けてきた。
しかしピンチは突然訪れた。一昨年、収益の柱である大手通販会社からの発注が打ち切られたのだ。スマートフォンの普及でカタログからネットへと、通販ビジネスが大きくシフトしたのが原因だった。
仕事は激減。6年前から新規事業として始めていた健康食品の販売に一本化することも考えた。
「でも、地道な封入・発送作業で会社を支えてくれた従業員に、ハイさよならとは言えないですから」。
悩む日々に彼を鼓舞したのは、京セラ創業者、稲盛和夫氏の「試練は天が与えてくれる剪定(せんてい)」という言葉。
植物を生育させるには剪定、つまり枝切り処理が必要だ。枝を落とされてこそ樹木は生命力が活性化し、養分を力強く吸い上げて大きく成長する。
「この試練は成長へのチャンスなんだと、さあこれからだと気力が湧いてきました」。
社長の前向きな姿勢は従業員に伝わり、ポジティブな気運が社内にみなぎると次第に新しい仕事が舞い込み始めた。形や重さの違うカタログを数種類組み合わせて封入したいといった細かなオーダーにも対応できるのは、ベテランスタッフによる手作業ができるからこそ。さらに営業やホームページでの集客。V字回復というわけではない。しかし、着実に復活を実感している。
▲株式会社カサマ 代表取締役 笠間 力氏
(文・写真/山蔭ヒラク)