【あぁ、麗しのファミリービジネス】Vol.5 斜陽産業の事業承継こそ商機?!
私は大学で、実家が家業を営んでいるという学生、つまり将来家業を継ぎ経営者になるかもしれない学生を対象に、事業承継をテーマにした授業をやっています。家業を継ぐかどうかを決断してもらうことが目的ではありません。でも経営者の家に生まれた以上、継ぐが継がないかを決断しなくてはいけない時がいつかはやってくる。しかもそのタイミングは突然だったりするので、社会に出る前の学生時代に(まだ切羽詰まっていない時に)家業を継ぐ人生について考えておいてもらおうというもの。
先生は中小企業の若手経営者の皆さん。家業を継ぎ、手痛い経験を乗り越えた上で新たな事業領域を開拓された方々から、経営者としての覚悟を決めるまでのプロセスを聞くことで家業に向き合うキッカケにしてもらっています。
実は学生の多くは基本的に家業を継ぐことに対してネガティブです。といっても彼らは家業の是非を判断する情報はほとんど持ってない。なんせ二十歳そこそこですから当然です。家業のことはよく知らないので、彼らの家業の見え方は業界のイメージそのもの。製造業、繊維卸、建設業…、斜陽産業に見える業界に身を置くことをただただ不安に感じているようです。
翻ってみると、斜陽産業の家業を継いだからこそ事業を成長させた経営者も大勢いらっしゃいます。大学の授業でも先生をお願いしているカスタムジャパンの村井社長は、ご両親が営んでいた小さな部品卸売業の顧客リストを引き継ぐ形で、05年に自動車やバイクのカスタムパーツの流通を手掛ける会社を新たに設立。今では約100人の社員を抱え、アジア各国の拠点をベースにダイナミックに事業を展開するベンチャー起業家としても知られています。そんな村井社長が学生に伝えた言葉が印象的でした。
「今後は斜陽産業に商機がある。ビジネスはどこで戦うかということが重要だ。イノベーティブな着想で勝負すれば、斜陽産業こそ宝の山だ」。
経営書ではなく、先人の実体験をシェアさせてもらうことで、若い世代の家業の見え方が見る見るうちに変わっていきます。経営者と後継者予備軍による熱い授業が今年も始まります。
大阪産業創造館
「Bplatz press」編集長
山野 千枝
本紙「Bplatz press」編集長。数多くの中小企業を取材する中で、家業を受け継ぎ事業を展開する経営者の生き様に美学を感じる一方、昨今の後継者不在問題を憂いて「ファミリービジネスの事業承継」をテーマに、現役の後継社長とともに関西学院大学、甲南大学で教鞭をとる。実家も四代続くファミリービジネス。