【あぁ、麗しのファミリービジネス】Vol.9 大学名物「ガチンコ後継者ゼミ」今年も始まる
今年もこの季節がやってきました。
今年も始まります。
関西学院大学の通称「後継者ゼミ」。今年で三年目です。
受講生は経営者の家に生まれた学生のみ。
先生は、自身も家業を継いだ後継社長たち。
世代交代を機に、業態転換、新規事業など、先代の経営資源をベースに新しい取組みに挑戦している経営者が、家業を継ぐことを決意した当時の葛藤や体験談をもとに、学生諸君と生々しいディスカッションを行うという、まさにガチンコゼミ。
要するに先生も学生も「経営者の家に生まれた人間」シバリという、前代未聞(たぶん)の授業なのです。
私の周囲の経営者の皆さんの中には、「中小企業の経営は大変だから、子どもに継げと言いづらい」と仰る方が多いです。
その結果、子どもは家業のことを知る、きちんと考えることもないまま、まったく別の道に進む。
後継者候補がいないことで、社長さんたちも事業を成長させよう、安定化させておこうという気持ちも働かず、ビジネスはどんどんシュリンクしていく。
別の道に進んでいた子どもが一度は家業を継ぐことを考えてくれるものの、その時にはマイナス要因が増えているため承継が難しい状況になっている。
現実に廃業も頭をよぎっている。
そんな事例をたくさんお聞きしたことがキッカケとなって、「親が遠慮しているなら子どものほうはどうなんだ?」と始めた取組みです。
残念ながら、学生の多くは家業を継ぐことにぶっちゃけネガティブです。
「親の会社は斜陽産業だと思っている」「誰かに決められた道に進むのがいやだ」「経営者なんかになりたくない」など理由はさまざま。
でも!こんな気味悪いタイトルの授業を履修するくらいですから、ネガティブとはいえ、家業は気になる存在ではあるわけです。
家業のことは気にはなるけど、「継ぐと決めたと期待されると困る」ので、親とも話ができない。
親が会社員の友達には、自分の葛藤などわかってもらえるわけもなく、誰にも悩みを話せない。
特別なキッカケがないために、考えること、向き合うことを先送りしていた家業。
この授業では、同じ境遇の学生たちとともに三ヶ月間集中して「家業」について考えます。
ただ、誤解がないように言っておきたいのですが、この授業は学生たちに「僕は家業を継ぎます」と決めてもらうことが目的ではありません。
彼らが本気で悩んで悩みぬいて決断をしなくてはいけないのはもっと先のこと。
その時にちゃんと考えたうえで継ぐと決める。ちゃんと考えたうえで継がないと決める。
その後の人生で言い訳をしないように、最後は自分自身で決断する。
その時のために、
社会に出る前のニュートラルな状態の時に、家業を継ぐ人生について考えてみる。
将来必ずやって来る「継ぐか継がないか」を迫られる決断の時のために、相談できる仲間をつくっておく。
これがこの授業のゴールです。
この授業が行われる三ヶ月の間、前半は先輩経営者の世代交代に関する体験が題材ですが、後半になるにつれ、テーマは彼らの「家業」「自分自身」に変わっていきます。
最初は家業について人に話すのを躊躇していた彼らが、三か月後には驚くほど変わります。
借り物じゃない、自分の言葉で家業への想いをビビッドに語っている彼らに、私たち大人のほうが教えてもらっているのかもしれません。
今年もどんな学生と出会えるのか、楽しみです。
(山野千枝)
大阪産業創造館
山野 千枝
本紙「Bplatz press」編集長。数多くの中小企業を取材する中で、家業を受け継ぎ事業を展開する経営者の生き様に美学を感じる一方、昨今の後継者不在問題を憂いて「ファミリービジネスの事業承継」をテーマに、現役の後継社長とともに関西学院大学、甲南大学で教鞭をとる。実家も四代続くファミリービジネス。