患者に寄り添い、地域医療を守る 新たな薬局の姿をめざして

~25周年特別連載~
Bplatz その後の物語 vol.02
ファルメディコ株式会社 代表取締役 狹間 研至 氏
創刊25周年を迎えたBplatz press。本企画では、これまで誌面に登場いただいた企業の“その後”をあらためて訪ねる。掲載当時の挑戦は、その後どう発展し、どんな姿へと進化しているのか。企業の現在地から、これからの可能性を探る。
母が開設したハザマ薬局を受け継ぎ、2004年に株式会社として歩み始めたファルメディコ株式会社の代表である狭間氏。薬局と薬剤師が地域医療の担い手となる「薬局3.0」を掲げ、2009年に大阪産業創造館の事業で優秀ビジネスプランに認定され、本誌でも紹介した。それから約15年。構想の実現に向けて走り続けてきた狹間氏は「今も、当時と同じことをやっている」と笑う。しかし、その取り組みは着実に輪を広げ、業界の常識や法制度を変え続けてきた。

狹間氏のバックグラウンドは薬剤師ではなく医師だ。自身が感じた、激務で疲弊する医師と仕事にやりがいを見出せない薬剤師のギャップに疑問を抱いたことが、その後のキャリアの転機となった。「処方箋の通りに薬を渡すだけでなく、患者さんの家や施設を訪問し、バイタルサインなども確認しながら専門的なアドバイスをすれば、薬剤師の存在価値はさらに高まります。
その情報を医師にフィードバックすれば、より適切な処方にもつながります。ただ、これを実現するには薬剤師のリスキリングが必要でした」と当時を振り返る。Bplatzで「薬局3.0」の構想が紹介された2009年、狹間氏は一般社団法人日本在宅薬学会を設立。もともと自社の薬剤師に血圧測定や聴診の講習を行っていたが、その取り組みを業界全体に広げるための母体として立ち上げたものだ。当時は「薬剤師が患者に触れるのはNG」という考えが常識だったが、地道な活動を重ねた結果、今では大学の薬学部でも教えるようになったという。

その後、薬を渡した後のフォローや医師へのフィードバックなどの「対人業務」が重視されるようになり、薬剤師の義務として法律にも明記されるようになった。そうした中、2016年頃から狹間氏が取り組み始めたのが、「薬局パートナー」という新たなポジションの創設だ。「薬剤師の活躍の幅を広げたい」と対人業務に力を入れる一方で、薬剤師の業務過多が顕在化する。薬剤師の仕事には調剤や服薬指導など「薬」の専門性を求められる業務以外に、保険の契約など事務的な作業も多く、そこに加えて居宅訪問やバイタルサインの計測といった新たなミッションが加わったからだ。ピーク時には「薬局に寝袋を持ち込んで泊まっている薬剤師もいた」という。「専門性を求められない調剤事務作業は別のスタッフに任せればよい」と考えるかもしれないが、スキルレベルによっては任せられないケースも多く、結果として薬剤師が抱え込んでしまう。そこで、調剤事務と薬剤師の間を埋める職域として狹間氏が提唱したのが「薬局パートナー」だ。日本在宅薬学会が基準を定めて検定試験を実施。これまでに約500人が認定を受け、全国の薬局で薬剤師の業務を支えている。

代表取締役 狹間 研至氏
そして2024年、狹間氏はさらなる薬局の環境改善をめざし、調剤業務そのものの外部委託に取り組む。従来は「受け付けた処方箋は、その薬局内で調剤しなければならない」という法規制があった。しかし、調剤業務の中でも薬を1つの袋にまとめる「一包化」と呼ばれる作業は機械化が進んでおり、日程的に余裕のある処方箋であれば、その設備を持つ薬局に委託した方が効率的だ。その実現に向け、狹間氏はまず国家戦略特区を活用し、大阪市内で一包化の外部委託を開始。その成果を国会でも訴え、2025年の薬機法改正において外部委託が一部認められることとなった。ただし、この動きを広めるには、多くの薬局が運営法人の垣根を越えて参画する必要がある。その推進を担う業界団体として、2025年に一般社団法人薬局DX推進コンソーシアムを設立し、制度の周知や機運醸成に努めている。

さまざまな取り組みを通じて薬剤師の働き方や制度を変えてきた狹間氏は、並行して薬局の経営改革を支援するサービスにも力を入れている。それを担うのが、以前から関係のあったソフトウェア開発の会社を受け継いで2014年に設立したPHB Design株式会社だ。同社では薬局が対人業務に注力するための環境整備をサポートするコンサルティングに加え、「nondi(ノンディ)」と「シジダス」という2つのITツールを提供している。このツールは主に介護施設向けの調剤業務を対象としたもので、施設職員と薬剤師の双方の負担を軽減しつつ誤薬を防止し、薬剤師と薬局パートナーのより効率的な連携を可能にする。今年度は「大阪トップランナー育成事業」に採択され、事業拡大に向けた視界は良好だ。

「僕の周り半径5メートルくらいは変わったと思うが、その先はまだ道半ば」と現状を語る狹間氏。では、思い描く理想の薬局の姿とは何か。「高齢化が進む中、薬局が『外来の患者さんに薬を渡して終わり』という業務を続けていたのでは、地域の健康を守ることはできません。外来の患者さん、施設や在宅で介護を受ける方、セルフメディケーションで薬を購入する方など、全方位に目を向け、服薬した後の健康状態の確認や医療機関との連携まで行うことで、薬局が本来の存在価値を発揮できます。ハザマ薬局でそのモデルを作りつつ、薬剤師の専門性発揮、調剤事務のリスキリングを通じた薬局パートナーの活用による業務の効率化、さらに業務改革に悩む経営者向けのコンサルティングや支援ツールなどをトータルで提供していきます」。

全国の薬局の数は約63,000店で、コンビニよりも多い。これらが地域医療の担い手として進化すれば、日本の医療環境は大きく改善するはずだ。「医師」と「薬局経営者」という2つの視点を持つ狹間氏だからこそ、その未来を見据えている。「医師の観点から見ると、薬局は大きな社会資源です。特に法人数で全体の9割以上を占める小規模薬局の薬剤師が、患者さんに寄り添える環境が整えば、地域医療は大きく変わります。その実現に向けて20年近く走り続けていますが、達成度はまだ半分くらい。まだまだ頑張らないといけないですね」。

(取材・文/福希楽喜 撮影/福永浩二)
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