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愚直に顧客満足を追求し、ラーメン不毛の地に築いたブランド

2025.12.09

巨大な看板に特徴的な書体で書かれた「河童」の文字。一度見たら忘れられないインパクトを放つ「河童ラーメン本舗」は、関西で26店舗を展開する大阪発祥のラーメンチェーンだ。その名を聞けば、替え玉、キムチ、揚げニンニクの「3大無料サービス」を思い浮かべる人も多いだろう。

始まりは少々複雑だ。1995年に別の屋号のラーメン店を買収した際に、関西フードサービス株式会社を立ち上げ、新大阪に1号店を開業。その約半年後に「河童ラーメン本舗」本店として千日前店を開業するが、こちらの運営は当時カラオケボックスなどの業態を手がけていた有限会社トマトフードサービスが担うこととなった。同社は後に株式会社河童ヌードルへと社名を変更し、関西フードサービスと河童ヌードルがそれぞれの店舗を展開するという2社による運営体制が続いている。

愛され続ける定番の味、“元祖背あぶら系とんこつ醤油ラーメン”。

「昔は『大阪のラーメンは美味しくない』とか『うどんの方がいい』などと言われていました」と振り返るのは、両社の経営を率いる米岡氏。学生時代にアルバイトとして入社した2代目社長だ。かつて「ラーメン不毛の地」とも呼ばれた大阪でブランドを築くのは容易ではなかったが、自社製造にこだわった麺とスープ、そして「3大無料サービス」によるコスパの良さが評判を呼び、地道に店舗数と売上げを伸ばしてきた。

代表取締役社長 米岡 潤氏

唯一の経営危機といえるのがコロナ禍だ。飲食店が営業自粛を迫られる中、それまで敬遠してきたデリバリーへの参入を決断する。「ラーメンは冷めると美味しくないですし、私たちは細麺を使っているので麺がのびる懸念もあり、それまでデリバリーは避けてきました。ただ、そうも言っていられない状況になり、のびにくい麺の開発や容器の改良を進めてデリバリー対応に踏み切りました」と当時を振り返る。ただ、この決断は後に恩恵となって返ってくる。自粛期間が明けた後も一定の需要が続いたデリバリーは、現在では店舗ひとつ分に匹敵する収益をもたらしているのだ。

そして現在、新たな脅威となりつつあるのが物価と人件費の高騰だ。コスパの良さを売りのひとつにしている同社も、2020年以降は3度の価格改定を行ってきた。「値上げは他社の動向も見ながら慎重に判断しています。また、単なる値上げで終わらせるのではなく、品質向上とセットで付加価値を高めることにも注力しています」と米岡氏。そうした中で、中長期的なコスト最適化の柱となっているのが「自社製麺」だ。一定のロットで安定供給できる体制を整えたことで、原価管理や商品設計の自由度が高まった。この取り組みにより、看板サービスでもある「替え玉1回無料」を可能にしている。「麺の原価は以前の約半分に抑えられるようになりました。そこで生まれた利益を、お客さまへの還元という形でサービスに反映したいと考えたのです」。

2025年には大阪・関西万博に出店し、万博の理念にも通じる「多様性」を表現するメニューとしてヴィーガンラーメンを提供。「メニュー開発や出店にかかった費用を考えると、収支としては完全に赤字ですが、国内外への認知拡大や、新商品開発で得たノウハウを考えると、十分に価値のある取り組みでした」と成果を強調する。「現在、ミナミや泉佐野の店舗はインバウンドのお客さまが多く来店していることから、今後はヴィーガン商品を通常メニューに加えることも検討しています」と今後の展望を語った。

「昭和の学校」をテーマにした大阪・関西万博店。

「2030年頃までに関西で50店舗まで拡大したい」と語る米岡氏。ただし、その姿勢はあくまで慎重だ。「急拡大した結果、衰退した飲食チェーンは少なくありません。私たちが大切にしているのは規模の拡大よりも、サービス品質を保って確実に存続すること。そのためフランチャイズ展開は行わず、現在の店舗はすべて直営店として運営しています」。

現場の声を形にしたスタッフ発案の“野菜ラーメン”。

「元祖背あぶら系とんこつ醤油ラーメン」という看板を守りつつ、顧客満足を愚直に追求しながら成長してきた河童ラーメン本舗。「商品は常にマイナーチェンジを繰り返している」と語るように、飽くなき向上心と、無理に規模を追わない地道な姿勢が、かつて「ラーメン不毛の地」と呼ばれた大阪で一つのブランドを築く土台となった。「今後、人口が減るのは確実で、海外も含めて市場を考える必要があります。地元大阪から日本のラーメン文化を世界に発信し、その結果、大阪が元気になればうれしいですね」。

(取材・文/福希楽喜 写真/福永浩二)
※掲載写真は、編集部にて撮影したもの以外に、取材先企業からご提供いただいた写真も含まれています。

関西フードサービス株式会社(株式会社河童ヌードル)

代表取締役社長

米岡 潤氏

https://kansai-food-service.com

関事業内容/ラーメン店「河童ラーメン本舗」の運営、外食事業
「河童ラーメン本舗」https://kappa-hompo.co.jp