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20秒で解決、国内唯一のパンク修理材専門メーカー

2022.06.03

「自宅から30㎞離れた先でパンクしてしまいどうなることかと思いましたが、おかげで無事帰ることができました」。取材日の朝に顧客から届いた商品に対するお礼メールだと浅野氏が紹介してくれた。その商品とは自転車の瞬間パンク修理材。携帯サイズのスプレー缶をタイヤのバルブ部分に装着しスプレーボタンを押すと、中に入っている液体ラテックスが、にゅるにゅるとムース状になってチューブ内部に入っていく仕組みだ。「パンクの穴がどこにあってもムースがチューブの内部全体に充満して穴をふさぐことができます」。注入時間は20秒ほどで、入れたらすぐに乗れる状態になる。タイヤから中のチューブを出してチューブにパッチを貼って穴をふさぐ従来のやり方と比べると圧倒的に簡単で速いため、もはやサイクリストの必需品になりつつある。

瞬間パンク修理剤「QUICK SHOT」。修理剤とエアーを同時に充填(約20秒)し、充填後はすぐに走行も可能だ。

サドルバックに入るコンパクトサイズ。

家業の自転車屋を手伝っていたことのある浅野氏の祖父が戦後間もない頃、自身もパンク修理に悩まされたことからゴムを溶剤に溶かしたゴムのりを開発し、自転車店に卸したのが始まり。その後、パンク穴をふさぐのに使われていた廃チューブに替わるパッチゴムや、ゴム同士の化学反応により接着力を高めたパッチゴムなども開発し、業界にマルニの名を定着させていった。

その技術を生かし、パンク穴に外部から差し込む自動車タイヤ向けタイプ、ひも状の修理材なども商品化。自転車用はほぼ国内向けだが、自動車用では60カ国に輸出するまでになっている。「材料は天然ゴム。温度変化などで性質が変わるため、状態を常にチェックしながら製造している」と国内唯一のパンク修理材専門メーカーとしての高い品質に自信を見せる。

自転車チューブ用に設計されたパッチ。キズ穴の大きさに合わせてさまざまなサイズを取り扱っている。

ただ、人口の減少とともに自転車の保有台数は2000年以降右肩下がりの状態にあり、市場は縮小しつつある。状況を打開するため、蓄積した技術を生かし商品の横展開ができないかと考えていたが、3年前にクライミングシューズ専用ソール(張り替え用靴底)の商品化にこぎつけた。浅野氏自身がクライミングをしていたことから思いついた商品で、対象をしっかりととらえるゴムの弾力性と摩擦性を追求し、履き慣れた靴を履き続けたいクライマーから愛用されている。

経営理念に「地球の限られた資源の有効活用」を掲げる同社。開発する商品は愛用する商品を長く使い続けるために必要なものばかり。「SDGsにも合致しており、これからも理念に沿った横展開の商品開発に注力していきたい」と意気込む。

代表取締役 浅野 傑氏

(取材・文/山口裕史)

マルニ工業株式会社

代表取締役

浅野 傑氏

http://www.maruni-ind.co.jp/

事業内容/車輌用・コンベア用修理材の製造・販売