[対談]売上よりも現金、儲けるよりもつぶさないこと(日建管理株式会社×大阪シティ信用金庫)
2022年に業容拡大に向けたM&Aを行うにあたって、大阪シティ信用金庫などから6,000万円の融資を受けた日建管理株式会社。同社の担当営業で、大阪シティ信用金庫本店営業部課長の福田氏との対談を通じ、金融機関との日頃の付き合いで大切にしていることなどをお聞きしました。
― まず会社の沿革と事業内容について教えてください。
亀山:松下電器産業(現パナソニック)の倉庫事業部に勤めていた父が、独立して倉庫会社を設立し、その後ビル清掃業に転じました。1970年にビルの環境衛生に関する法律ができ、業種分類にビルメンテナンス業が加わりました。ビル管理に関する法定業務が増えてきたことに伴い、清掃業に加え、設備管理、環境衛生へと事業の幅を広げてきました。また、お客さまであるビルオーナーが、複数のビルを収益物件として管理されるようになり、それに伴って発生するビルやマンション管理や各種代行業務も手掛けています。
― 金融機関とはどのようなスタンスで付き合いを続けてこられたのでしょうか。
亀山:当社は、設備投資を伴う業種ではなく、仕入れも発生しないため、設備投資資金や運転資金を手元に潤沢に持っておく必要はありません。ただ、さまざまな事業リスクを考えておかなければなりません。例えば、得意先の会社が突然買収されるようなことがあれば、取引先が見直され、売上が突然なくなってしまうことも想定の内に入れておかなければなりません。そのようなリスクを想定して常に余裕資金を持っておく必要があり、そのために融資をお願いしています。
― 金融機関との信頼関係を構築するために、どのようなことに取り組まれていますか。
亀山:月次収支はもちろんのこと、お金の出入りがわかる試算表や借り入れの状況などにについて把握するため、月末から2〜3週間後には前月までの結果がまとめられる仕組みを整えています。それが2〜3か月後では意味がありません。常に今の状況を把握することが大切だと考えています。
福田:金融機関側としては常に現状を把握しておきたいという思いがあり、非常に助かっています。また、なぜ現状の数字になっているかも知りたいわけですが、日建管理さんの場合は現状のデータに加えて過去との比較もわかりやすくまとめてくださっており、瞬時に状況把握ができます。
亀山:経営者はできれば数字を見たくないものです。決算やキャッシュフローの数字は、経営者にとって通信簿を突き付けられているようなものですから。しかし、勇気をもって現状と向き合わないと取るべき対策が取れず、手遅れになるリスクもあります。金融機関のためにというより、自分のためにできるだけ早く状況を把握できるようにしています。
従業員ごとの収益管理も把握できるようになっており、収益に連動して決まる報酬金についても自分で計算できるようにしています。
福田:さまざまな数字の中でも、特に気を付けて見ている数字はありますか。
亀山:流動資産の中の現金、すなわちキャッシュフローに着目しています。ついつい売上の数字に目が行ってしまいがちですが、売上は幻想であり、現金化されて初めて売上がたったことになります。赤字でも現金があればつぶれることはありません。逆に黒字であっても現金がなければ途端にギブアップせざるをえません。儲けることも大事ですが、経営者の最大の仕事は、会社をつぶさずに事業を継続させることだと思っています。
― 2022年に株式会社環研をM&Aされました。その経緯について教えてください。
亀山:そろそろ次の世代へのバトンタッチを考えるようになり、事業基盤の強化を見据え、M&Aを決断しました。新規事業を軌道に乗せるためには、一から人を育てて営業を行い、事業を大きくしていかなければなりません。その点、M&Aをすれば時間を買うことができます。さまざまな先から10社ほどの情報提供をいただき、その中で大阪シティ信用金庫さんにご紹介いただいた株式会社環研を買収しました。
同社は、給排水管の清掃事業を手掛け、安定的に収益を上げてきた会社なのですが、資金面で余裕があるだけでなく、今後も着実に成長していく将来像が見えました。
買収額は7,000万円で、当社の事業規模としては非常に大きな額でした。そのうち6,000万円の融資をお願いしました。
福田:当庫としても、そのぐらいの融資が必要になるであろうと想定していましたし、日建管理さんとはこれまでの関係もあり自信を持って今回のM&Aの案件を提示しました。当庫は本部に「事業承継支援センター」という専門部署もあり、安心してM&Aを進めていただけたと思います。
亀山:M&Aを契機に、不採算部門を一気に整理しました。赤字を出していた神戸支店を閉鎖することで、キャッシュフローのさらなる改善を狙いました。一気に筋肉質の会社に生まれ変わることができたと思っています。M&Aをする前と比べて環研の経常利益は2,000万円増えているので、投資資金がほぼ3年で回収できたことになります。
― 今後の目標について教えてください。
亀山:現金がコンスタントに残る会社をめざしています。通常お取引のある会社だけで収益をトントンに持っていき、スポットの事業で得た利益はそのままキャッシュフローが積み上がっていく状況にし、次の世代にバトンタッチしてきたいと考えています。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
【金融機関からのアドバイス】
融資を受けたいと考える経営者の方には、まず、月次で損益計算書、貸借対照表を管理し、すぐにその数字を出せるように仕組みを整えておいていただけると、状況把握、判断がしやすくなります。そして自社の事業の強み、弱みを把握し、それが数字にどう紐づいているのか、さらにはその強みを活かしてどのような事業計画に落とし込もうとしているのか、今後の構想についてもぜひお聞きしたいです。
そして、何より経営者自身が会社の状況をしっかりと把握し、ご自身の言葉で会社の強みや弱み、業績、キャッシュフローに関する数字についてお話しいただければと思います。
大阪シティ信用金庫 本店営業部 課長 福田 健一氏 https://www.osaka-city-shinkin.co.jp