現役バレリーナの挑戦~バレエ衣装製作の道、独学からプロへの転機「Jardin des Costumes」の起業ストーリー
大阪産業創造館 創業支援チームの【起業プログラム】を実際に利用し起業した“先輩起業家”を紹介する連載コラム。起業を志したキッカケや、困難に直面したとき乗り越えた方法、また事業を軌道に乗せるために必要なことなど。一歩先をいく先輩起業家の体験談を紹介します。
目次
■ 衣装づくりのきっかけ
独学で衣装づくりをはじめたのは2000年頃のこと。
幼少のころからバレエを習っており、社会人になってからも続けていたが、仕事との兼ね合いでスケジュール調整が難しくなり 、チケット制のバレエ教室に移った。しかし、その教室での発表会では、セルフプロデュースが必要で、衣装も自分で準備しなければならなかった。
最初の舞台では友人の衣装を借りることにしたが、身体に合わず可動域が狭まり、踊りにくさを実感した。踊りに影響を与えないためには、自分の身体に合った衣装をつくる必要があると感じたことが、衣装づくりを始めるきっかけだった。
■ 独学から専門学校での学びへ
子どもの頃から通っていたバレエ教室では、衣装は演目に合わせて教室が製作していた。そのため幼少期から先生たちの衣装製作を見て育ち、学生時代にはお手伝いもしていたため衣装づくりに抵抗はなかった。
その後も、試行錯誤をしながら独学で衣装をつくり続け、10年ほど経ったころ仲間から依頼の声がかかるようになった。しかし、自分のサイズはつくりながら調整できても、他人の場合はそうも いかない。
基本を知らない自分の技術に限界を感じ、一から学んでみようと服飾専門学校への入学を決めた。
基本的な裁縫の技術からパターンの引き方などが身に付いたことで、もっといろんな衣装をつくってみたくなり、ますます衣装づくりに没頭していった。
■ 起業を決めたきっかけ
当初は企業に勤めていたので、副業であっても衣装づくりを仕事にするつもりはなかった。しかし、服飾学校 で学び技術の精度を実感しはじめたころ、「作品集」のつもりで自作のバレエ衣装などを掲載したWebサイトを設立した。立ち上げてしばらく経ったころ、検索エンジンに引っかかるようになり、サイトのプレビュー数が増えはじめた。まだこのころは“会社員である自分”と“好きな衣装づくりに没頭している自分”がちょうど良いバランスだった。
その後、コロナ禍で会社の勤務形態の9割が在宅勤務となり、生活は一変した。オンラインミーティングでもない限り、誰ともコミュニケーションをとらない日もあった。
また、同じ時期に職場で大きな業務改革があり、チームリーダーを任されるなど、仕事の領域が広がり業務の負荷が増加。仕事に対する限界を感じていた頃、「自分の好きなこと、“衣装づくり”を本業として力試しをしたい」という気持ちが芽生えはじめた。
■ 衣装製作技術のブラッシュアップ
縫製技術の基本は学んだが、バレエ衣装づくりの技術をさらに高めるには、その道のプロに学ぶ必要がある。そう考えた木村氏は、なんとか技術を教えてくれるところはないかと、必死で探し、東京で唯一見つけた講座に参加することにした。この講座は全国から受講生が集まり、キャンセル待ちが出るほどの人気だったが、なんとか受講することができた。
大阪から東京まで一年間通った。講師はイギリスのバレエ団の衣装製作に携わっていた方で、受講生もプロダンサーの衣装製作に関わるなど、高い技術を求める環境で学べたことは、木村氏にとって大きな経験となった。
■ 起業プログラム【創業チャレンジゼミ】を受講
大阪産業創造館(以下、産創館)のことは、以前に職場の先輩から勧められていたこともあり、メルマガだけ受け取っていた。メルマガに掲載されたさまざまな起業イベントやプログラムのなかでも、起業アイデアをビジネスにするまでサポートする連続講座【創業チャレンンジゼミ】が気になり、「ここまで支援してもらえるなら、自分にも起業できるかもしれない」と受講を決めた。
「バレエ衣装のオーダーメイド」というビジネスアイデアだったが、受講後に担当講師から「バレエ衣装を一か月に何着つくれば生計が立てられるのか」という数値計画について問われ、はっとした。起業するには目先のことだけではなく、売り上げをつくり利益をどのように確保していくのかという収支計画の重要性など、「経営」について改めて学ぶこととなった。
衣装づくりという、ある種アーティスティックなことだけでなく、「事業の柱となるもの」を見つけることが必要だった。「自分にできることはなにか」と模索した結果、「バレエ衣装製作の技術を人に教える」という新たなビジネスアイデアにたどり着いた。
自分なりに市場調査をしたところ、短期講座やおうちサロンのようなものを除いて、Webで検索してもバレエ衣装の製作について一から教えてくれるスクールは、自身が参加した東京での一講座を除き、ほとんど見つからなかった。自分のように衣装づくりの「技術」を求めている人がいるかもしれないと思い、このビジネスで勝負を決めた。
■ 事業の柱となる講師活動と起業の決意
「事業の柱」となる「講師」としての活動は、古い衣装をリメイクする講座から小さくスタートさせた。SNSで募集してみると、生徒が3人集まった。オーダーメイドでバレエ衣装の受注制作を請け負いながら、生計は「講師業」で成り立たせるという形で、起業することを決意。独学で衣装製作をスタートしてから、実に20年という月日を経て、「Jardin des Costumes」として起業した。
講座として成立させるためには、他の人がやっていないことをする必要があった。木村氏はバレエ衣装の製作において「デザイン構築」を含めてカリキュラムを組んだ。製作フローのカリキュラムづくりなどにチャレンジできたのは、26年間の会社員時代に培った企画力が役立っている。そして、「デザインから学べる衣装製作講座」もスタート。ようやく自分のやりたいことのビジョンがはっきりと見え、形にすることができた。
■ 未来の起業家へのメッセージ
起業に関しては、「直近で起業した人の話」を聞くことも貴重だと思います。私が受講した【創業チャレンジゼミ】では、卒業後も交流会が行われており、そこでの「生の声」がアイデアや知識のインプットに有効でした。
また、“金銭的な感覚と資金繰り”については、サラリーマン生活が長く、ビジネスにおける金銭感覚が鈍感でした。講座で資金繰りの方法を学び、経済的な面を考慮しながら起業することで、余裕をもってスムーズな立ち上げができました。少し石橋を叩きすぎて、起業までに時間がかかりすぎてしまいましたが(笑)。
「Jardin des Costumes」代表 木村 章子 氏
木村氏は慎重派だったからこそ、しっかりと市場調査を行ったことで、ニーズを見つけることができた。その結果、バレエ衣装に特化した製作サービスが求められていることを発見し、ビジネスとしてスタートすることができたのだ。また、予想外だったのは、生徒が製作仲間として木村氏の大きな助けとなったことだった。これまで一人で行っていた衣装づくりも、教え子たちを外注先として連携し、作業を分担することで馬力も増えた。製作と講師業の二足の草鞋を効率よくこなす基盤も整い、次なる事業展開を視野に入れながら活動の場は広がっている。現在、2024年秋にパリで開催されるファッションウィークでのバレエ衣装ランウェイショーに向けて全力で邁進中の木村氏。「パリ・オペラ座のダンサーの衣装を作るという目標に一歩近づけた」と語ってくれた。
大阪産業創造館では、起業に役立つセミナーやプログラムをご用意しています。
⇒利用した起業プログラム
「創業チャレンジゼミ」
“やってみたい”を具体的な行動に変える!ビジネスプランへステップアップさせる連続講座です。
https://www.sansokan.jp/challenge/
Jardin des Costumes(ジャルダン デ コスチューム)
代表
木村 章子 氏
https://jardin-des-costumes.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/jardindescostumes//
事業内容/バレエ衣装のオーダーメイド/レンタル/製作講座