【マーケティングセンスを磨く知恵袋〈2〉】「価値」の正体を考える~価値こそマーケティングの起点にして原点
連載「マーケティングセンスを磨く知恵袋」
第二回「『価値』の正体を考える~価値こそマーケティングの起点にして原点」
日常会話でほとんど使われないのにビジネス会話では多用される用語がいくつかありますが、「価値(バリュー)」はその最たるものではないでしょうか。マーケティングでは尚更で、最頻出ワードと言っても過言ではありません。そこで今回はこの「価値」の正体を考えてみようと思います。
いきなりですが、ちょっと寄り道。
価値とよく似た概念に「ベネフィット」がありますが、ほぼ混同されているようです。ただし語源に遡れば、価値(バリュー)は「〇〇に備わる」に対して、ベネフィットは「良い結果」。従って厳密には、価値とは「商品価値」を、ベネフィットとは「顧客にとっての便益」をそれぞれ意味しており、いわばコインの裏表。両方を合わせて「広義の価値」と捉えることも可能かもしれません。
つまり語源的に微妙な違いはありますが、実質的に同じと捉えてやはり問題は無さそうです。実は私も気分で使い分けたり、字数に余裕があれば併記したりしていますが、今回は「価値」で統一しましょう。
さて、表に示すように価値には大きく2つのタイプ、すなわち「機能的」と「情緒的」があります。さらに細分化する人もいますが、私はこれだけで十分かつ実務的だと思います(かのドラッカーも二分法が好きでしょ)。
両者の特徴は表を見ていただくとして、特に強調したいポイントは、機能的価値が伝わった消費者には「理解・納得」という態度変容が、一方の情緒的価値では「共感・感動」という態度変容が期待できるということです。
「どちらの価値が大切なのか?」と思う人もいるかもしれませんが、それに対する一応の答えは「両方とも大切」です。しかしそのうえで「当該商品のマーケティングはどちらを重視すべきか?」とさらに問うのであれば、理解・納得と共感・感動のどちらを重視するのか、という問題意識に尽きます。もちろん商品特性や社会状況によって一概には言えませんが、一般的には「ブランド化をめざすのであれば共感・感動を実現するために情緒的価値のコミュニケーションを重視すべき」とされています。
実際にブランド論で高名なデービッド・アーカーは以下のようなことを記しています。
「消費者の心を掴むのは機能的価値にあるのではなく、情緒的価値である。」
ところがここで新たな問題が浮上します。それは、「当該商品の情緒的価値とは何なのか?」という、そもそも論的な問題です。
機能的価値は簡単に把握できるし、伝えられます。例えば保険商品の場合は「万一の時の補償額は・・」「月々の保険料は・・」「持病があってもOK」など、その機能的価値はいくらでも列挙できます。
しかしその一方で情緒的価値はとりあえず「安心」だとしても、それをどう伝えればよいでしょうか?また、安心という情緒的価値は漠然とし過ぎていて、果たして差別化に役立つのでしょうか? うぅ~ん・・・・
価値の理解と伝達、とりわけ情緒的価値の場合は非常に難しいのですが、私は「背中で語る」という慣用句がヒントになると思っています。つまり、「あえて語らずに伝えて、察してもらう」。
次回以降はその一助として物語のマーケティング的活用をお話ししましょう。お楽しみに!
四元 正弘氏(四元マーケティングデザイン研究室 代表)
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。サントリー株式会社でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。87年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立。主たる専門領域である消費心理・動向分析では日本の第一人者としてその分析には定評があり、このテーマでの講演多数。また地域ブランド開発も手がけ、多くの県や市町村の委員会などにも積極的に参加、ワークショップファシリテーションも行う。