ヘルシーなこんにゃく麺で世界中を笑顔に
「世界で一番こんにゃくのことを考えています」と話す中尾氏は、堺市に唯一あるこんにゃくメーカーの四代目。創業90年以上、国産有機生芋と昔ながらの木灰でつくる「菊松こんにゃく」で知られる会社だ。
中尾氏が事業承継を意識したのは高校入学直後。将来について考える授業がきっかけで、家業に限らず「自分は社長になる」という目標をもった。大学卒業後は証券会社の営業担当として活躍。しかし、二代目の祖父が脳梗塞で倒れたため堺に戻って家業に入った。まずは製造現場を知ることから始めたが、しばらくして商品の回収を余儀なくされる大きなクレームが起きてしまう。そのときのお客様対応などに危機感をもった中尾氏は、「自分が社長になって会社を立て直したい」と先代である父に直談判し、25歳で社長になった。
予定よりも早い社長就任だったが、目前にあるのは業界の縮小化や既存商品で飽和する市場。そのなかで、自社の売上げを伸ばすためにはどうすればいいのか。思案のうえ、新規市場開拓のために日本の伝統食であるこんにゃくを「海外へ広める」と表明。「こんにゃくは糖質ゼロなうえ満腹感が得られる。しかも、グルテンフリーで食物繊維が含まれるジャパニーズスーパーフード。これまで培ってきた自社の知識や技術を活かせば、世界に受け入れられるはず」。
まずはこんにゃくの海外輸出許可を得ようとしたが、賞味期限が12カ月以上必要と言われた。試行錯誤のうえ、製造現場の徹底的な衛生管理で取り組むしかないと判断。物流の軽量化については、中小企業庁の事業再構築補助金を得て、真空パック機を導入することが決まった。一方では堺市の新商品開発勉強会に参加し、プロテインや鉄分などの栄養素が食物繊維と一緒にとれる「トレーニングヌードル」を開発。若者や海外で受け入れられやすいポップなイラストをパッケージに使用した、こんにゃく麺の新商品をリリースした。
中尾氏が最も尊敬する経営者は、日清食品創業者の安藤百福氏。「私の大きな夢は、カップヌードルの麺がこんにゃく麺に変わること。おいしくてヘルシーな麺を提供して世界中の人に喜んでいただきたい」。すでに、京都先端科学大学(当時は大阪府立大学に所属)の教授と提携して、乾燥こんにゃく麺の製造方法の特許を取得している。「まずは、こんにゃくと深く向き合う。そして、不足する資源を集め、課題を克服しながら、ワクワクする夢の実現に近づいています」。社長になって9年、これからも焦ることなく経営の舵をとっていく。
(取材・文/花谷知子 写真/福永浩二)