義肢はAIで「自ら考える」時代へ 高度なバイオニクスで人体の能力拡張に挑む

これから伸びる市場は?どんな技術や発想が注目されている?「次世代ビジネス発掘ラボ」では、そんな“これからの可能性”を探るべく、ユニークな取り組みに挑む企業や人にフォーカス。まだ知られていない、でもおもしろい!を発見する連載です。
【Case.5】カワテック株式会社CEO アルバロ・リオス・ポベダ氏
「Disability(障がい)とは社会が生み出しているものです」。
そう断言するのは、高度なバイオニクス(生体工学)を基盤に「障がいのない世界」の実現をめざすカワテック株式会社の創業者、アルバロ・リオス・ポベダ氏。南米コロンビア出身で、来日前はメキシコでバイオテクノロジーの研究に従事していました。
「ヘルスケア技術が発達した日本でプロダクトを開発したい」と2022年に大阪でカワテックを設立。同年にリリースしたのが先進技術を駆使したバイオニック義手「RYO」です。名前の由来は「量子」。脳から発せられる筋電をAIで解析することで、人間の手の動きの「95%は再現できる」といいます。軽さと耐久性に加え、AIがユーザーの使用状況を学習して動作を最適化する機能も備えています。

バイオニック義手「RYO」
本来、義手を操るには一定の訓練が必要ですが、RYOは装着してすぐに使える点でも画期的といえます。2024年には、戦争で腕を失ったウクライナ兵士のリハビリ支援のため、大使館を通じてRYOを提供。兵士は戦争前と同様に日常生活を送れるようになり、仕事にも復帰できたそうです。
2025年には大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンに出展。ブースには延べ2,000人が訪れ、実際に上肢障がいのある2人の来場者がRYOを体験し、自分の意思どおりに指が動く様子に驚きの声を上げていました。「万博出展は非常に有意義で、私たちの技術やビジョンを多くの人に知っていただく機会となりました」とアルバロ氏は手応えを語ります。

大阪・関西万博にて。実際に上肢障がいのある来場者がRYOを体験した。
「RYOはすでに市場に出せる段階にある」とし、認知拡大と販路開拓に向けてネットワーキングにも力を入れつつ、次の展開も見据えています。「RYOはあくまで最初のステップ。私たちは身体の全パーツを視野に入れています」。そう語るアルバロ氏が新たに開発を進めているのが「目」です。
「視覚障がいがある人は世界的に増加傾向にあります。私たちが開発する義眼はカメラの映像信号を直接脳に届けるもので、実現すれば再び明かりを取り戻すを手助けをすることができます」。最大の特長は、非侵襲型で手術が不要な点。そのため低コストを実現でき、世界中に普及させることが可能です。既に特許も出願し、製品化に向けて開発を重ねています。

子どもの頃、負傷した宇宙飛行士がサイボーグとして生まれ変わるTVドラマに夢中になったというアルバロ氏。テクノロジーが人間を進化させる世界観に魅了されたといいます。「私がめざすのは障がいを補うだけでなく、健常者も含めて身体の能力を拡張すること。これを『ヒューマンオーグメンテーション(人間拡張)』と呼んでいます。この概念が広がり、参画するプレーヤーが増えるほど、プロダクトの普及に必要なコストは下がっていきます。そのようなビジネス環境を生み出すべく、私たちはバイオニクスを発展させるためのエコシステム構築にも力を入れています」。
母国から遠く離れた日本で事業を展開するアルバロ氏の目に映るのは、生まれた場所や障がいの有無によって左右されることのない公平な世界。「健康は全世界共通の権利です。バイオニクスで身体機能を高めるためのコストを下げ、病気や戦争、貧困などに関わらず、全人類が不自由なく暮らせる世界を実現する。それが私のゴールです」。

(取材・文/福希 楽喜)
<Bplatz編集部 取材メモ>
障がいを“個人の問題”ではなく“社会がつくり出している構造的課題”として捉え、テクノロジーの力でその境界をなくそうとするアルバロ氏の発想に圧倒されました!バイオニック義手「RYO」に込められたのは、失った機能を補うだけでなく、「人間の可能性を拡張する」という大胆なビジョン。その根底にあるのは、国や文化、障がいの有無にかかわらず、誰もが自由に生きられる世界を実現したいという強い信念です。社会課題をテクノロジーで乗り越える挑戦を続けるカワテックの動向から、今後も目が離せません!









