100年の経験と確かな設計力で、誰もが快適に眠れる社会を築く
これから伸びる市場は?どんな技術や発想が注目されている?「次世代ビジネス発掘ラボ」では、そんな“これからの可能性”を探るべく、ユニークな取り組みに挑む企業や人にフォーカス。まだ知られていない、でもおもしろい!を発見する連載です。

代表取締役会長 川上 良康 氏(中央)
専務取締役 川上 良介 氏(右)
R&D Head Office 開発部 大越 健史 氏(左)
厚生労働省の令和5年「国民健康・栄養調査」 によると「睡眠で休養がとれている」と感じている人の割合は約75%で、年々減少傾向にあります。この課題の解決が期待されているのが、首に装着して睡眠時の呼吸音を計測し、いびきや無呼吸を抑制するウェアラブルデバイス「Sleeim(スリーム)」です。これを開発したのは1923年創業の株式会社oneA(ワンエー)。映写機やモーターサイレンなど幅広い電子機器を開発・製造してきた実績があり、設計、ソフトウェア開発、プリント基板実装から量産まで、自社で一貫して対応できる体制に強みがあります。

ウェアラブルデバイス「Sleeim(スリーム)」本体。
1990年代に参入したパチンコホール向けの機器が売上げを伸ばし、2010年代半ばには業績の7割を占める主力事業に成長。ただし、許認可事業のため規制によって売上げが左右される側面もありました。「新たな収益の柱を作りたい」と模索していた頃、つながりのあった大阪電気通信大学の教授から「大学には事業化されずに眠っている研究成果がたくさんある」との相談を受けます。そのひとつが睡眠時のいびきや無呼吸の検知に関する研究でした。
「この研究と弊社の技術を組み合わせれば、睡眠改善につながるプロダクトを生み出せると確信しました」と振り返る会長の川上氏。研究内容を基に、同社では睡眠を阻害せずに振動でいびきを抑制する技術の開発に着手しました。のべ100人以上の社員がモニターとして協力し、5年をかけて最適な設計を模索。呼吸音を正確に拾うためには、マイクは首の一点に固定する必要があり、浮いてしまうと正確に検知できません。かといって圧迫感があると今度は睡眠を妨げてしまう、この両立が特に難しかったといいます。「一度は心が折れかけました」と開発担当の大越氏は当時を振り返ります。
それでも、長年の歴史で積み重ねた設計力に加え、成功を信じ続けた経営陣の後押しもあり、Sleeimは2020年に完成。「本当に市場に受け入れられるのか」という不安をよそに、展示会ではブースに人だかりができるほどの盛況で、クラウドファンディングも目標額をはるかに上回る結果となりました。さらには、小型化を実現した設計力と健康課題の解決につながる製品としての期待からグッドデザイン賞も受賞。テレビでも数多く取り上げられました。
5月には大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンに出展し、1週間の展示で1,000人超がブースに来場しました。「Sleeimの発売を機に、社内も新しい挑戦に前向きになりました」と語る専務の川上氏は、デバイスから得られる睡眠データを活用し、新たなヘルスケア技術の研究・開発にも取り組んでいます。「将来的には医療機器の開発も視野に入れ、人々の健康改善に貢献していきたい」と、さらなる高みをめざしています。
(取材・文/福希 楽喜)
<Bplatz編集部 取材メモ>
“眠り”という誰にとっても身近なテーマに、ものづくり企業ならではの技術で挑んだ姿勢がとても印象的でした。大学の研究成果と自社の技術をうまく掛け合わせて、しっかりと形ある製品にまでつなげた流れは、「研究をビジネスに活かす」うえでのひとつの成功パターンとも言えそうです。まだまだ課題の多い睡眠改善の分野で、確かな設計力と粘り強さを武器に挑み続ける同社の今後にも、引き続き注目していきたいと思います!
株式会社oneA
代表取締役会長 川上 良康氏
専務取締役 川上 良介氏
R&D Head Office 開発部 大越 健史氏
事業内容/電子応用機器、精密切削部品、ウェルネス機器等の製造販売