「りらくる」創業者が成功の舞台裏を明かす、ヒットの秘訣は模倣と冷静な分析にあり
低価格で充実したサービスを受けることができるリラクゼーションスペース「りらくる」。全国に620の店舗網を持つ同社の礎を築いたのが、株式会社T’S インベストメントの竹之内教博氏だ。
美容師から起業して「りらくる」を開業した竹之内氏は、わずか7年間で600店を出店。2017年には新たなビジネスにチャレンジすべく、投資会社に事業を売却。その額は270億円にものぼった。徹底的な分析とパクリ(模倣)、そして論理的な戦略によって快進撃を続ける竹之内氏はどのような道をたどって今に至り、これからどこへ向かうのか。
■手に職志向から多店舗経営をするビジネス志向へ
―「りらくる」創業前はどのようなことを?
美容師をしていました。大学をわずか4カ月でやめてしまった当時の僕は、「とにかく働かないと。そのためには手に職を」と考えていました。それが美容師をめざしたきっかけですね。
就職したのは、多店舗展開している美容室で、ここでの経験が「りらくる」をはじめとした後のビジネスに大きく影響しています。例えば、「人は意欲や教育では動かない。仕組みで動く」という学びもその1つです。
ご存知のように、美容室ではカラーリングやトリートメントなど、さまざまなオプションサービスを提案しています。積極的に提案して利用してもらうと当然店舗の売上げは伸びますよね。ところが、このことをスタッフに説明して「みんなでお店を成長させていこう」と話し合っても、なかなか成果は出ませんでした。なぜなら多くの美容師は、お客さまのヘアカットやスタイリングをすることには興味があっても、物を売ることにはさほど興味を持っていないからです。それなのに、「もっと売れ」「多く売った美容師こそがいい美容師」と言われてしまうと、スタッフはやる気を失います。
そこで僕は、オプションのメニュー一覧表を作り、「これを必ずお客さんに見せてください」というルールを導入しました。スタッフに対する評価は「メニューを見せたかどうか」であって、売れたか売れなかったかは評価の対象外としました。これなら、物販に興味がないスタッフでも取り組むことができると考えました。評価基準が明確なので、納得のいかない指導や叱責でストレスをためることもありませんし。これが「仕組み」です。
このような経験を重ねながら、店長になり、複数店を統括する立場になって、徐々にビジネス的視点を養っていきましたね。自分が現場に入って稼ぎを生み出していくという「手に職」志向から、現場からは一歩引いた立場で事業を育てていくビジネス志向にシフトしていきました。
■先行するサービスを徹底的に分析し、模倣する
―「りらくる」快進撃の要因は?
TTP(徹底的にパクる)です。「パクる」という言葉に抵抗感があるなら、「すでにヒットしているものを徹底的に分析し、いいところを取り入れる」といったイメージです。
「りらくる」には、モデルになったリラクゼーションサロンがあって、僕自身が客としてよく利用していたサロンなんです。小さなお店にも関わらず、なかなか予約が取れなくて、すごい繁盛ぶりでした。最初は素朴な疑問として「どうしてこのサロンはこんなに繁盛しているのだろう?」と考えていたのですが、ビジネス視点でお店を見てみると、実によくできた仕組みだったんです。サービス内容や料金体型、店舗の立地、広告などをつぶさに調べていき、それらを「りらくる」でも実践していきました。
模倣することに批判的な声があることは承知しています。でも考えてみてください。膨大な情報が行き交う現代において、まったくのオリジナルなど存在するのでしょうか。また、ビジネスに限らずどんな分野でも、先人たちが試行錯誤を積み重ねて現在に至っています。「今、存在していない」ということは、「過去に挑戦したが淘汰された」という意味かもしれません。ですから僕は、既存の優れたものを見つけ出し、それを分析し、模倣することこそが理にかなった成功方法だと考えています。
模倣することで立ち上げ、成長させたビジネスは、模倣されやすいビジネスでもあるんです。実際、「りらくる」のヒットを見て、競合がたくさん参入してきました。とはいえ、このことは創業時から織り込み済みでしたので、最初から競合対策をとっていました。その方法の1つが、美容師時代に経験していた仕組みづくりです。リラクゼーションサロンにとっての最大の課題は、施術を行うスタッフの確保です。そこで「りらくる」では、未経験者を短期で独り立ちさせる教育プログラムを構築しました。また、ドミナント戦略も実施しました。最初は大阪、次に関西一円、その次は名古屋圏と、とにかくスピード重視で出店し、競合が「戦う前から勝負を諦める」という状況作りに専念しましたね。
「スタッフの育成が顧客増についていかず、サービスが低下したら元も子もない。だから事業の拡張はスタッフが育ってから」という声をよく聞きます。新規出店についても同じような理屈を耳にしますが、僕はまったく逆の考え方をしています。「お客は増える、店は増える」ということを前提にしているので。この前提に対して、「じゃあ、そのためにはどうする?」と考えるのです。目の前の状況が変われば、対応するための工夫はいくらでも生まれるんですよ。
■ジャンルを越え、ヒットするビジネスを生み出していく
― 事業譲渡後はどのような活動を?
ビジネスプロデューサーとして、伸びそうなビジネスを見つけ、成長を支援する取り組みを行っています。現在携わっている事業は、高級食パンや韓国料理などの飲食、クラブ運営、化粧品の通信販売など、さまざまなジャンルで合計20になります。(2021年8月時点)
「りらくる」を立ち上げる際、90%以上の確率で成功すると考えていました。すでにヒットしているものを徹底的に分析・模倣して改良も加えるのですから、それぐらいの確率になるのは、ある意味で当然だと思ってましたから。7年を経てその予測は正しかったことが実証されたのですが、僕のなかでは、「1つの事業を成功させるのは、宝くじに当たるようなものなのでは?」という思いもありました。「りらくる」で取り組んだことは、偶然にも「りらくる」という事業や、リラクゼーションという業界にマッチしただけという可能性もありますから。
そうではなく、ジャンルを越えて通用するノウハウやビジネススキルを身に付けたいと僕は考えていましたので、「りらくる」の経営からは退き、まったく違うビジネスに取り組むことにしたんです。
幸いにも、新たな事業でも成果を上げることができました。「りらくる」の成功は宝くじに当たったのではなく、必然のものだと言える自信もつきました。そこで現在は、書籍を執筆したりYouTubeチャンネルを開設したりと、情報発信に努めています。
これからビジネスを始めたいと考えている人や、既存のビジネスに悩みを感じている人の役に立つ活動をすることが、これからの目標の1つです。もちろん、ビジネスプロデューサーとして新たな事業へのチャレンジも続けていきます。
■コロナ禍で伸びているビジネスをTTP
― コロナ禍においてビジネスを成功させるには?
ここでもやはりTTPです。コロナ禍ではビジネスに対する負の側面ばかりが強調されていますが、冷静になって身の回りを見てみると、コロナ禍でも伸びているビジネスや、「コロナ禍だからこそ伸びた」ビジネスがあるのです。それらのビジネスに注目し、ヒットの要因を分析してみてください。必ず、成功の法則が見つかるはずです。
■客観的に社会と自分を見つめ、常識を疑っていく
― 起業をめざす人にアドバイスを
冷静に非常識になってください。非常識になるとは、常識を疑うという意味です。当たり前だとみんなが信じているものを疑ってみるのです。そうすると、それまでは気づいていなかった成功への道筋が見えてくるはずです。常識を疑うには、冷静さが必要で「客観的に世の中や自分自身を見つめてみる」ということです。
一番ダメなのは「みんながそう言うから、きっと正しいだろう」と闇雲に信じること。常識的な判断や行動をしているようで、実はこれは、まったく冷静さを欠いた行為なのです。これではうまくいくわけがありませんから。
僕自身の成功の要因としてTTPを挙げてきましたが、真似をすればそれで成功するというわけではありません。「流行っている店の真似をする」のではなく、「流行っている店の、流行る要因を真似する」のです。そのためには徹底した分析が不可欠です。ここでもやはり、冷静さが大切なんですよ。
最後に付け加えるなら、「真似はいけないことだ」という常識を捨ててください。真似に対する考え方を変えることが、成功の確率を上げる第一歩だと思います。
■竹之内社長のyoutubeチャンネル【非常識な成功法則】
https://www.youtube.com/channel/UCH3goNChaODS4vVO3yZjacQ
(取材・文/松本守永 写真/福永浩二)
株式会社T’S インベストメント
会長
竹之内 教博氏
1977年生まれ、大阪府出身。20代に美容師として複数店舗のコンサルタントとして働く。30代に「りらくる」を創業、7年で600店舗にまで拡大し270億円で事業売却。現在、飲食事業、有料職業紹介所の運営、アプリ開発事業、ECサイトなど20以上の事業を手掛ける。