ユーザーの笑顔を忘れず、事業を柔軟に変化させる
編み物やアクセサリー、雑貨などを自分で作る人たちのためのハンドメイドに特化したEC&コミュニティプラットフォームアプリ「croccha(クロッチャ)」は、製作者同士やユーザーとつながる仕掛けがふんだんに組み込まれ、使われる材料をそのまま購入できるEC機能もついている。
ユーザーの99%を女性が占めるが、運営する藤原氏は外資系製薬会社でMRを経験し、関西支店長まで務めた後に起業した経歴を持つ。およそハンドメイドのイメージとは結びつかないが、創業のきっかけは支店長時代の4年前、経営大学院に通い始めたことにさかのぼる。
同期の中で一足飛びに昇進し、「経営者としてのマネジメントを会社での今後のキャリアに生かすべく」学んでいたときに、大学院で出会ったのがすでにハンドメイド向けのECサイトを運営していた、後に共同創業者となる福田久美子氏だった。
ビジネスプランの授業で、福田氏とともに事業化に向けアイデアを磨くうち「たまたま母がハンドメイドを趣味にしていたこともあり、IT化が遅れているこの分野におけるECアプリの可能性を大いに感じた」という。
また、30代のうちにチャレンジしたかった思いもあり、創業に踏み切った。
創業当初は、製作者が作品完成後に使いきれなかった材料の売買を仲介する収益モデルでスタートしたが、材料の大半は単価が安いため送料が加わると割高感があり広がらなかった。
その後、参加者が、使っている材料をどこで買えるのかを探すのに苦労しているニーズをくみ取り、製作者に材料の品名や購入先を書いてもらうとともに材料販売店のサイトに送客するビジネスモデルに転換。そこへコロナ禍とともに、おうち時間をマスク、エコバッグづくりにあてるハンドメイドブームが到来し、一気に収益が好転する。
だが、それもつかの間、ブームに潤い送客に頼らなくていい材料販売店が手を引き始めた。それならば、と今度はユーザーが欲する商品を自社企画し製造、販売する事業を新たにスタートした。
創業来、直面した状況に合わせ目まぐるしく収益モデルを変化させてきたが、「大切なことは、ユーザーがどうしたら喜ぶかという事業の目的を見失わないこと」と藤原氏。現在は、これまで試行錯誤する中で培ったECアプリ構築、運営のノウハウをもとにECシステムの販売とマーケティング支援を行う事業も伸びている。
今後は、DIYなど扱う領域を広げ、動画の活用などユーザーが求めるECプラットフォームアプリの新しいあり方の提案も考えており、ハンドメイドを通じた笑顔の数をさらに増やしていこうとしている。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)