【ロングインタビュー】洗いざらい共有し、互いの思いを尊重 不変と革新で「世界一従業員が幸せな会社」へ
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病に倒れた長男の後を受け承継、不変と革新でつながる父子の思い
◆従業員が困っているのなら助けるのは当たり前(社長)
――貫二社長は三男です。どのような経緯で事業承継に至ったのでしょうか。
会長:息子が3人おりますが、長男を後継者として育て、入社後ずっと指導してきました。次男、三男には自立するように促し、次男は鍼灸師に、三男は野村證券に入社しました。ところがその長男が病に倒れ、余命宣告を受けたのです。
次男は鍼灸師の道をまっすぐに進んでいたので、三男の貫二におそるおそる戻ってきてほしいと聞いてみたところ、意外なことに二つ返事で「戻ります」と言ってくれました。それが2013年12月のことです。
妻子がいるわけですから改めて返事がほしいと伝えたところ、年明けに正式に受諾の返事をしてくれました。そのことは長男にも伝えました。結局、長男は14年5月に亡くなり、7月に三男を専務として迎え入れました。
――迷いはなかったのですか。
社長:なんの迷いもありませんでした。千房の創業の理念に「信頼と友情 そしてファミリーの心」という言葉がありますが、父はそれを家族にも浸透させていました。
私自身、子どもの頃からずっと千房の入社式にも社員旅行にも毎年参加させられていましたし、父からは常に「おまえは誰のおかげで飯を食ってこられたのかわかっているか。おれじゃない。従業員が夜遅くまでお好み焼きを焼いて働いてくれているおかげや。それを忘れたらいかんぞ」と言われていました。
もちろん、会社は兄が継ぐものと思っていましたし、私は当初から自立しようと考えて、野村證券でずっと働くつもりでした。ただ、兄がそういう状況になって従業員が困ってしまうことになるのなら、私が“家族”として助けるのは当たり前だと思い、すぐに返事をしました。むしろ父のほうが驚いたと思います。
◆約束は二つ。あとは何をしてもよい(会長)
――呼び戻すにあたってどんなことを貫二さんに伝えたのでしょうか。
会長:2つのことを伝えました。1つは、野村證券の「の」の字も言ってもらっては困る、と。千房で働いている人は誇りを持って仕事をしてくれています。だから比較してああだこうだと言うのだけはしてほしくないと言いました。
2つ目は、 社長から今日入ったアルバイトに至るまで全従業員が自分のために働いてくれているということを自覚してほしいということです。この二つさえ守ってくれたらあとは何をしてもよいと伝えました。
たたき上げでお好み焼きを焼くところから始めた長男と違って、彼にははじめからマネジメントを任せようと思って専務で迎えました。もちろん小さい頃から千房のことを知っているとはいえ、落下傘でやってきた専務を従業員が受け入れてくれるのだろうかと不安だったことは確かです。
――入社してまずしたことは何だったのでしょうか。
社長:当初はお好み焼きを焼く現場から経験すべきと考えもしたのですが、とても1、2年で修得できる世界ではないなと感じ、マネジメントに徹する覚悟を決めました。
そうであるなら、会社の良いところ、悪いところを洗いざらい知っておきたいと思い、社長と役員を外した部長クラスの幹部とひざ詰めで話す交流会の場を設けてもらいました。すると、素晴らしいと思っていることも、不満に思っていることも、あふれんばかりに出てきたんです。
会長:その交流会に参加した幹部が専務に「野村證券にいるときより給料が安くなるのになんで戻ってきはったんですか」と聞いたそうです。すると専務から「社員の方が困っていたらご恩返しするのは当たり前」という答えが返ってきて、「専務はすごいですね」と。一気に社員の心をつかんだようでそれを聞いて安心しました。
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