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起業を社長が全面サポート!ともにめざすのは業界のさらなる発展

2019.10.02

起業をめざす社員を、在籍する会社の社長が全面的にバックアップするという“レアケース”がある。
起業志望者である根倉氏は現在、大阪石材工業に籍を置きながら大阪産業創造館の起業支援スペース「立志庵」で起業準備を進めている。
サポートするのは同社の代表取締役である伯井守氏。時間の融通はもちろんのこと、社員という安定した立場の保証、そして“先輩経営者”としてのアドバイスなど、さまざまなかたちでサポートを受けながら起業をめざす根倉氏と、それを見守る伯井氏の、それぞれの思いを聞いた。

 
―― 根倉さんは起業してどのような事業を立ち上げる予定ですか?

根倉氏:私は現在、Webを用いた当社のサービス展開を担当しています。その延長として考えたのが、「供養に関する総合メディア」の立ち上げです。

霊園のことや墓石のこと、弔い方のことなど、さまざまな情報が集まっていて、「このサイトに来れば悩みや疑問が解決する」というメディアをめざしています。

このメディアを構想した背景には、墓石という商品の特性があります。墓石の購入機会は、ほとんどの人が一生に一度だけです。リピーターの獲得が極めて難しい商品なのです。

そんななかで、どうやってビジネスを継続し、発展させていくかを考えたとき、「供養に関する総合メディア」の必要性に思い至りました。

業務推進係 係長 根倉(ねぐら)辰佳氏
家電業界での営業職を経験後、Web業界に興味を持ち専門学校で技術を学ぶ。卒業後、Web制作会社での勤務を経て大阪石材工業に転職。同社のコーポレートサイトを制作・運営するほか、広告の運用などWebを活用した事業展開を担当する。今年秋には「供養に関する総合メディア」となるWebサービスを立ち上げ予定。

 
―― 社内での新事業ではなくどうして起業という方法を選んだのですか?

根倉氏:サイトユーザーに対する納得性がカギになりました。供養のかたちは多様化しており、例えば、お墓を設置しない散骨という形式も広まりつつあります。散骨にはメリットもあればデメリットもあります。

では、石材会社が運営するサイト内で散骨のデメリットを語ったとすると、どれほどの納得感があるでしょうか。サイトユーザーからすると、「結局は墓石を売りたいのでは?」となってしまいます。

これは、「供養に関する総合メディア」にとって好ましくない状態です。となると、大阪石材工業からは離れ、独立した立場でサイトを運営すべきだと考えたのです。実現したい姿があって、そこに至るための手法として起業を選びました。

 
―― 社長はなぜ、社員の起業をサポートされるのですか?

伯井氏:本人にとっても、当社にとっても、そして業界にとってもメリットが生まれる「三方良し」だからです。事業とはそもそも、お客さまの要望に応えて何らかの価値を提供することです。要望は時代とともにどんどん変わります。変化する要望に応え続けることが、事業を継続するということなのです。

となると、私たちは変化する要望をキャッチし続けなければいけません。このとき、第三者の目が重要なのです。自社のメンバーだけでお客さんや社会を眺めていても、自ずと視野は限られます。

対して、第三者の目が入ると、視野はぐんと広まり、新たな要望や変化をキャッチできる。ですから根倉には、社外という第三者的立場から、私たちの業界を眺めてほしいと思いました。

彼が手掛けるWebサービスは、今後の石材業界や霊園業界を引っ張っていくものになるでしょう。彼が事業を成長させることとはすなわち、私たちの会社や業界が成長することにつながると考えています。

私たち中小企業は、社員一人ひとりの人材力なくしては、組織力に勝る大企業と勝負することはできません。人材力とは、どれだけ多くの社員が経営的感覚を持ち、部門や役割をまたいだ広い視野で行動できるか、という意味です。この点において、根倉のように起業をめざす人材は大歓迎なのです。

代表取締役 伯井(はくい)守氏

 
―― 伯井社長にうかがいます。社員から起業意思を告げられたとき社長はどうすればいいでしょうか。

伯井氏:社員を信じ、応援してください。もちろん、社長には複雑な思いもあるでしょう。「裏切られた」と感じることもあるかもしれません。

でも私は、人材育成とは、裏切られる覚悟をすることだと思っています。裏切られるかもしれないけど信じて、任せてみる。そうすることで、相手は育っていくはずです。

信じてあげないことには成長はありえません。それはひいては、自社の事業を停滞させることにつながります。

 
―― 根倉さんにうかがいます。起業の意思を会社に告げようかどうか迷っている人は、どうすればいいでしょうか。

根倉氏:その迷いがあるうちは、まだ起業への思いが固まっていないということです。思いが固まれば、会社にもはっきりと伝えられるでしょう。

当社は、社長が社員の声に真摯に耳を傾けてくれます。私も入社してから10年あまりの間、感じたことややりたいことを素直に口に出してきました。その延長線上に「起業します」という言葉があったように思います。もしかすると、当社のように「フラットに何でも言える関係」が、会社に在籍しながらの起業準備につながったのかもしれません。

そう考えると、まずは自分の目標や希望、課題意識などについて、上司などに“伝える”というところから始めるといいかもしれません。それがやがて、大きな仕事を任されるようになったり、社内ベンチャー、あるいは起業という、そのときどきの最適な形につながるように思います。

(取材・文/松本守永 写真/Makibi)

大阪石材工業株式会社

代表取締役 伯井 守氏
業務推進係 係長 根倉 辰佳氏

http://www.osaka-sekizai.co.jp/

事業内容/墓石・石製品(記念碑、企業墓、石製モニュメント)の製造・販売・施工など 自社で墓石の加工・販売を行うことに加え、霊園の運営や墓地の清掃サービス・引っ越しなど、お墓に関する総合的なサービスを提供。大阪・神戸に計8店舗を展開する。