クルマ好きが高じてビジネスに
小さいころから木や竹・紙、果ては金属でものを作ることが好きだったという芦田氏。クルマのことを語り出したら止まらない。工作好きの少年がそのまま大人になったような人だ。
20歳の頃から、趣味で日本初のオフロードレースに自作のオフロード車で参戦してきた。
81年の初回から燃費を競うレースにも毎年のように出場し、途中から電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車も開発。99年にはリッター当たり2322.32㎞の自己記録も達成した。
勤めていた電機部品設計メーカーでも、ガソリン車を電気自動車に改造し近畿運輸局管内初のEVとして登録。しかし時代が早すぎた。
芦田氏の名を一躍知らしめることになったのが、2006年に独立してからのこと。
大手電気メーカーからの依頼を受け、単3乾電池を動力源にスピード記録に挑戦するプロジェクト企画・提案し、時速105.95㎞のギネス記録を達成。
また、廃線になった旧小坂鉄道(秋田県)の軌道を使い、単1形乾電池99本で総重量1トンの10人乗り電車を走らせるプロジェクトでは約8.5㎞を走破し、テレビCMで進捗が報告され話題を集めた。
金属、樹脂加工などを伴う多様な製品の開発委託を受けるつもりが「いつの間にかほぼ自動車専業になっていった」と語る。その後、中国や国内の自動車部品メーカー、完成車メーカーから電気自動車のシステムの試作開発依頼も受けるようになる。
「メーカーも部品メーカーも、ものづくりが細分化してしまっており、システムでそれをつなぐことができなくなりつつある。そこにうちの出番がある」と強みを説く。
一方で、ガソリン車をEV車に改造するなどオーダーメイド車製造のほかミニカーの開発にも取り組んでいる。その一つが、重い荷物を運ぶ訪販・集配業界向けに開発した貨物用1人乗りEVだ。
原動機付き自転車単体では最大積載量は30㎏までだが、けん引した付随車には120㎏まで積載できることを道路交通法を読み込んで開発した。
国土交通省近畿運輸局および本省の国土交通省をして「そんな手がありましたか」と言わしめたほど。「昔は道路交通関係の法律は一言一句再現できるくらいよく目を通していたので」と笑う。
「僕の一番好きな乗り物はね…」と少し間を置いた後、「馬なんです」。
制御がきかないものに対してどのような手段で手綱さばきできるかに醍醐味を感じるのだろう。根っからの工作好きの表情をまたのぞかせた。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)