家事をシェアして自分らしく輝く社会に
ゼロから何かを作り出すのが好きな子どもだった。SE(システムエンジニア)として大手IT企業に入社してからも、新しいプロジェクトに率先して参加し続けてきた。
ある時、先輩から「新規事業ばかりでかわいそう」と言われて驚く。自分ばかり楽しい業務を担当して申し訳ないと思っていたからだ。「何も決まっていない中で、新しい情報を吸収し、自らの発想をカタチにする。その流れを楽しめるのも一つの能力なんだと気づきました」。
いつか新たな事業を起こしたいと考えていたが、子どもが生まれて家事や育児との両立に限界を感じるようになっていた。ホコリが舞い散る部屋、替えられないシーツ。子どもが洗濯物の山から直接着替えを取るのを見て、「誰かに家事を手伝ってもらえたら」と思った。
知人から、海外ではインターネットの掲示板で家事の代行を個人間契約をすると教えてもらい、海外サイトの東京エリア版でハウスキーパーを募集。選ぶのには苦労したが、いい人と巡り会えた。
「家事にもスキルの違いがあると実感しました。生産性が高く、楽しんでやっている。そんな人と、私のように切実に助けを求めている人が、もっと簡単に出会える場が必要だと思ったんです」。当事者としてニーズを確信し、一週間後には退職を決意。「タスカジ」を立ち上げた。
一般的な家事代行サービスとの違いは、ハウスキーパーの直接派遣ではなく、個人間でやりとりをするためのプラットフォームであるという点。利用者側は料金を低く抑えられて、働き手は高い報酬を得られる。
また、自分に合う人を見つけやすいという利点がある。近年、民泊やカーシェアなどで注目を浴びる「シェアリングエコノミー」と呼ばれる仕組みだ。
掲示板で募集したハウスキーパー3人と利用者になってくれる友人3人を集め、まずはオフラインでテストマーケティングを実施。実際の流れに沿って動かしてみることで、必要な事前情報や効率的なオペレーションを探り、システム設計や利用規約に落とし込んでいった。「後からのシステム修正はお金がかかり、ルールの変更は混乱につながります。SEの経験が役立ちましたね」。
サービスインして最初にぶつかった課題は、「家事は家庭内で」という日本の根強い考え方。家事のアウトソースには罪悪感を持つ人がまだ多いことだ。そこで、利用者として自らの状況をブログで発信し、良かった点や子どもへの影響などを隠さず公開。
「私自身、家事サポートがあったからこそ事業にチャレンジできて、人間らしい暮らしも取り戻せました。家事は健康に直結しています。当事者が発信することで心のハードルを下げられたらと思いました」。
クチコミは広がり、利用者は現在4万人。メディアにも取り上げられるようになった。嬉しいのは、働く側からも喜ばれていること。主婦としての経験が社会で役立ち、お金を生む。個人事業主として、勤務時間や仕事量を自由に決められる。
レビューで評価される仕組みは、スキルやホスピタリティの高さが明確になり、書籍を出版するなどタレント的に活躍する人も出現。マイナスイメージさえあった“家政婦”は、クリエイティブで誇りの持てる職業だと社会の意識を前進させた。
「今後も新しいことをし続けていきたい」という和田氏。地方自治体との協働も始まり、新たなサービスの構想も。「世の中は徐々に変わってきましたが、もっとドラスティックな変化がほしい。『核家族から拡大家族へ、家族の形を再定義する』を合言葉に、家事は女性が家庭内でするもの、家事代行はお金持ちだけのもの、そんな固定観念をなくし選択肢を増やしていきたいんです」。
原動力は、自己の成長だ。見たこともない問題を乗り越えていく中にこそ、成長への鍵があると考える。
「事業の進め方に正解はありません。周りにアドバイスをもらいながら、最後は自分で決める。リスクはありますが、コントロールはできます」。当事者として社会に課題を感じることがあれば、ぜひ多くの人に起業してほしいと前を向く。
(取材・文/衛藤真奈実 写真/福永浩二)
≪タスカジ 和田氏も登壇!オススメイベント≫
12月10日(月)、19日(水)、20日(木)開催
【起業STEP UPフェスタ 2018】あなたの夢が動き出す3DAYS!
事業を大きく成長させた創業社長の講演や先輩起業家の等身大の起業体験、起業にまつわるセミナーを開催。講演や体験談から、起業の道を選択したキッカケ、失敗や困難に直面した時の乗り越え方、事業を軌道に乗せるために必要なエッセンスなど、起業に向けて活かしていただけるヒントをつかみ、セミナーでは起業の基礎知識やアイデアをブラッシュアップする手法を学んでいただけます!
https://www.sansokan.jp/sogyo/stepup/