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【長編】最後は自分を信じられるかどうか。信じられたら諦めない。

2012.10.10

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全品280円均一。インパクトのある商品力で、全国に293店舗(2012年8月現在)の焼鳥屋をチェーン展開する株式会社鳥貴族。27年前に一軒の焼鳥屋を開業して以来、大倉氏の信念は一貫している。「消費者の立場で感動することを追求する」。

しかし、これまでの道のりは決して平坦ではなかった。「経営者は心に消しゴムを持っておかなければいけない。悪いことは寝たら忘れてしまうくらいじゃないと経営者なんてやってられない。最後は自分を信じられるかどうか。信じられたら諦めない」。穏やかな語り口から伝わってくるのは静かなる情熱。

「せっかく生まれたからには世の中に影響を与えたい」。1985年、その想いは25歳の若者を突き動かし、飲食ビジネスで身を立てる決意をする。

しかし最初の危機は開業一年目にやってきた。客足は一向に増えず、日商がわずか一万円の日もあった。結婚して子どもも生まれたばかりなのに、貯金は見る見るうちに減っていく。夜は眠れず、食事も喉を通らない。店の軒先に出ては、夕暮れを眺めながらただただ焦る日々が続く。「このままではアカン」。

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先人の経営書を読み漁り、当初から温めていた均一価格業態を研究。起死回生をかけ、全品250円均一に踏み切ったところ、急激に客足が伸び、売上も上がっていった。しかし、大規模店のようにスケールメリットで勝負する仕入れ力はない。価格を下げれば利益に直接響く。「この業態ならチェーン展開できる」と確信し、利益のマイナス分を自分の給料で吸収しながらなんとかしのいだ。その後は低価格業態が注目される不景気を追い風に、郊外を中心に出店を加速することになる。

しかし、30店舗になったくらいから出店スピードに売上が追いつかず、全体の資金繰りを圧迫する事態に陥る。苦渋の末、思い切って社員に「休みを削らせてくれないか」と申し出た。それまでピンチは幾度となく乗り越えてきた社長が初めて見せる深刻な表情に社員にも動揺が走り、社内に沈滞ムードが拡がる。

道頓堀出店という大勝負に出たのはそのときだ。投資規模は郊外店の数倍にも及ぶ。しかし勝算はあった。郊外店で鍛えられた鳥貴族の商品力には圧倒的な自信がある。何より、飲食業のメッカ道頓堀に出店することで、社内に漂う暗い空気を吹き飛ばしたかったのだ。最後は「この俺がこんなんで終わるはずがない」と奮い立たせ、決断に踏み切った。道頓堀店の看板が揚がるのを戎橋から眺めながらこみ上げてくるさまざまな想い。「ここまで来れた」という感慨と同時に、見える景色が変わった瞬間でもあった。「全国展開」という次なるステージの幕開けだった。

 

「再び社員に夢を与えた」道頓堀店は想定以上の繁盛店になり、会社も一気に息を吹き返す。利益は全て出店費用にまわし、関東、中部にも進出。現在293店舗、2016年までに国内1000店舗をめざす。

創業して27年、大倉氏の信念は変わることはない。焼鳥を究め、焼鳥で感動させる。「僕は『焼鳥と永遠(とわ)に』と本気で思ってる。だから他の事業をやっても鳥貴族と同じくらい魂は入らない。社長が魂を入れない事業なんかに社員はついてこないですから」。

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子どもの頃から「成功したければ他人が遊んでいるときに努力しなさい」と母親に言われて育った。高校卒業後、がむしゃらに働いた。他人より頑張って働いていれば安心できた。そんな自分へ信頼の言葉ともいえる。そして、信じられる自分でいるためには 「小さな成功体験を積み重ねる。そして不運なことは忘れてしまうこと(笑)」。 実に明快だ。

 

 

【取材コボレ話】

 

サービスの軸足

「消費者の立場での感動を追及する。逆に消費者の立場でいやだと思ったことはやらない。
それを実践するだけ。例えば、突き出しで料金を取るのは飲食業にとって麻薬みたいなもの。だって客単価が自動的に300円上がるんですから。でも自分が消費者の立場で考えたらそんなんいらんと思う。だから鳥貴族では突き出しを出さない」。

「焼鳥屋世界一」を掲げる鳥貴族。海外進出は?

「今は慌てることはないなというのが実感。現在、海外に進出している他社は富裕層対象がメイン。鳥貴族はその地域の一般庶民に支持されないと価値がない。日本国内1000店舗の出店と『焼鳥屋=鳥貴族』というブランドを確立してからで十分間に合う」。

宝くじに当たりたくない?!

「僕は本業(焼鳥屋)以外で儲けたくない。だから株も宝くじも当たりたくない。宝くじに当たったら1本140円の串を売る地道な商売を続ける自信がないから当たりたくないんです(笑)」。

自分を信じ続けるためには?

「小さな成功事例を積み重ねて、悪いことは忘れてしまう(笑)。僕は悶々と考えるタイプじゃない。楽天的とよく言われます。切り替えるのが上手いんでしょうね。それに僕は運がいいんです。というより、『運がいい自分』と思えるところが強み。不運なことは一晩眠って忘れます(笑)」。

キャラクター「トリッキー」秘話

鳥貴族の黄色いロゴマーク「トリッキー」。足の部分に注目してほしい。「無限大」を意味する「∞」には大倉氏の特別な思いがある。「永遠の会社にするためには、永遠に成長しなくてはいけない。無限大に成長していく」という決意が込められている。

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株式会社鳥貴族

代表取締役

大倉 忠司 氏

http://www.torikizoku.co.jp/

設立年/1986年 従業員数/3,200名(パート・アルバイト含む) 事業内容/全品280円均一の焼鳥屋チェーン。じゃんぼ焼鳥『鳥貴族』は、関西大阪を中心とし、東京を含め全国展開している。社長ブログ http://ameblo.jp/toriki-ookura/