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めざすは老舗×ベンチャーのハイブリッド型企業

2015.12.09

あみだ池大国+

「ここは大きな個人商店やな」。7年勤めた大手金融会社を退職して家業に戻って間もない小林氏に、こう皮肉る人がいた。1805年から続く老舗。「おこしのあみだ池大黒」として知られるが、当時は社員全員が職人化して誰が何をやっているのかブラックボックスになっていた。

「個人商店を脱し、企業に変えていく」。そう覚悟を決めた小林氏は、社員が仕事を補完しあえるよう仕事をマニュアル化したり、紙とPCでの管理が併存していた経理業務から紙伝票をなくすなど「バケツの穴を埋めること」から取り組んだ。

一方、無駄を省いて生まれた人材と資金を新商品開発に向ける。それも、メインのおこしではなく、当時売上げを伸ばしていたテーマパーク向けのチョコやクッキーだ。「定番のおこしと違って商品サイクルが短いため、どんどんアイデアを出して商品化していくことが求められる。企画開発力を社内に蓄えれば、他事業に横展開できると考えた」。

しかし、そうしているうちに、長年おこし売り場があった百貨店から退店を迫られる事態に。「おこしだけでは集客できない」という指摘を受け止め、百貨店の担当者を説得し、新商品開発に着手する。

テーマパーク向け商品に使っていたチョコやイチゴフレーバーの材料とおこしの製法を掛け合わせて誕生したのがのが「pon pon Ja pon(ポン ポン ジャポン)」だ。

機械に任せて造るおこしと違い、手作業に頼る。「おこしのイメージが壊れる」「効率が悪い」と社長からは厳しい指摘を受けたが、「退店で売上げゼロになることを思えば、捨て身でやるしかない。失敗しても違うブランドだから、あみだ池大黒の名は傷つかない」と覚悟を決めた。

結果は大ヒット。今までリーチ出来ていなかった若い女性から多くの支持を集めた。「開発のために新たに購入したのは5万円の作業台だけ。これまで先代が蓄積したおこしづくりのノウハウと老舗の信頼があったからこそ」と語る。

そして今年10月に新たに立ち上げたブランドが「Matthew&Chris.P(マシューアンドクリスピー)」。溶かしたマシュマロに米のシリアルを混ぜたアメリカの家庭菓子をヒントに生まれた“ニューヨーク版おこし”だ。

「僕が新しいブランドをつくっていくのでは意味がない。自社の強みを活かした商品企画を会社としてどんどんできるようにならなければ」という決意も込めて、社員に開発を委ねた。

創業210年の老舗のタスキを受け継ぐ7代目がめざすのは「老舗にベンチャー精神を掛け合わせたハイブリッド型企業」だ。

誌面では紹介しきれなかったロングインタビューはコチラ
→「個人商店から企業へ」。老舗おこしメーカーに新たな風を吹き込む7代目の決意。

(取材・文/山口裕史 写真/高田裕司)

株式会社あみだ池大黒

専務取締役

小林 昌平氏

http://www.daikoku.ne.jp

事業内容/1805年創業の老舗。おこしを中心に「大阪みやげ」を展開。百貨店のほか、駅、空港、テーマパークなどで販売。