人が人らしく生きるための働き方を求めて

同社では、パート従業員がいつ、何時に出退社してもよいフリースケジュール制を導入している。しかも休む時の連絡は不要だ。これだけ聞くと、そんな野放図にして日々の仕事はちゃんと回っていくのだろうか、と心配になる。

「みんなそれぞれにパートとして働きたいという理由があってうちに来てくれているので、ぼくがやるべきことは、出勤することを苦痛だと思わず、淡々と働けるようにすること。ごく普通のことをやろうとしているだけです」。

従業員が9人だった昨年まで1人も出社しなかった日は1日だけ。16人に増えた今では、どんなに少なくても4~5人は出ているという。

退勤時間と体調は、当日ホワイトボードに記入し管理している。

フリースケジュール制を導入する前は、休む時には事前に連絡を入れてもらうようにしていた。「でも考えてみれば自分がアルバイトしていた時、休みますと電話することがどれほど嫌だったか。こちらも来ると思っていたのに来なかったとなるとカチンと来る。そこで連絡を一切禁止にしました」。そんなふうにだれもがストレスを抱えない働き方を模索し続けている。

昼休憩の有無も自分で選ぶことができる。

7年前、宮城県石巻市にあった工場が東日本大震災の津波にのまれた。再開の気力も失せるほどの被害だったが、父がパプアニューギニアのエビ漁師たちが自立できるようにと育ててきた事業をやめるわけにはいかないとの気持ちが日々勝っていく。

そんな折、大阪の取引先から「市場に空事務所がある」と声がかかった。津波で流された原料の損失に加え、元々あった借入と新たな設備のための借入を合わせた1億4千万円の債務を抱え、無縁の地で再スタートを切った。

石巻から来てくれた社員と2人で工場を一から仕切り直し、新しくパート従業員も雇い入れ、ようやく事業として体をなそうとしていた矢先、工場長が辞めた。代わりに現場に入ってみると、パート従業員どうしの人間関係は不信に満ちていた。「あれだけの震災に遭ってわざわざ大阪にまで出てきて自分は何をしていたのか」と自省した。

パート従業員のなかには子育て中の母親も多く「人が人らしく生きることに根差した会社に」と考え、始めたのがフリースケジュール制だ。

現場に入りながら常に意識していることは「本音で話してくれるかどうか」。そのために「自分がいつも本音で話すこと」「出てきた提案や問題点にはどんなことでも答えを出すこと」「問題点を改善する際には、言った人が特定できないように配慮すること」に気をつけている。どれも現場にいるからこそわかったことだ。

自身が大嫌いな掃除でも「掃除が好きだ」という従業員がいるとわかった時、人が多様であることに改めて気づき、それならばと他の作業の項目を細かくわけた上で全員に好き嫌いのアンケートをとった。見事に好き嫌いが分かれ、「嫌いな仕事はしなくてよい」のルールができた。

アンケートも漫然とはとらない。「本当に正直に書いているか」と問いかけたら「嫌い」がどっと増えたこともある。ブラシを使った掃除に高圧洗浄機を導入したところ大多数だった「嫌い」派がほとんどいなくなった。それでも「嫌い」が偏れば、作業を分担する。

「働き方を変えるうちに働く人も変わっていくのが常ですが、うちは働き方を変える前から働き続けてくれているパートさんが7人もいることが誇り」。熟練の作業者が増えれば、おのずと仕事の効率も上がり、利益にもつながっていく。

今、ようやく借金完済のめどが少し見えてきた。大きな取引の話も増えつつあるが「値段、量、納期を崩してまで受けるつもりはない。仕入先のエビ漁師、従業員が負担を感じないようにすることが自分の務めだから」。人が人らしく生きることを犠牲にしてまで、との思いは丁寧な仕事へのこだわりにもつながっている。

工場長 武藤 北斗氏

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

↓3月5日(月)に開催された武藤氏の講演録はコチラ↓
【トークライブ!】小さなエビ工場の奇跡
工場長の武藤北斗氏が『小さなエビ工場の奇跡』について「なぜフリースケジュール制度を導入するに至ったのか?」「導入後どうなったのか?」など、誌面では紹介されていないエピソードを織り交ぜ本音で語りました。

2018年04月09日
株式会社パプアニューギニア海産
工場長・営業  
武藤 北斗氏
事業内容/天然エビの加工・販売

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