【長編】苦しみから生まれた「こどもミュージアムトラック」が社会を笑顔に。
世界に一つだけのコーヒータンブラー
ドライバーの良心を呼び起こす取り組みはほかにもある。その一例が「メリータイム」だ。毎朝の点呼のあと、事務所で挽き立ての熱いコーヒーを運転士持参のコーヒータンブラーに注ぎ入れて送り出す。
「仕事前に熱いコーヒーで脳をシャキッとさせてほしい、そんな気持ちで始めました。タンブラーを渡しながら、『今日も無事帰ってきてくれよ』と願いを込めています」と宮田社長。
さらにこのメリータイムには粋な計らいが隠されている。
以前、ドライバーに内緒で運転士の家族に事務所に集まってもらい、子どもたちに絵やメッセージを描いてもらった。その絵やメッセージをもとにコーヒータンブラーを作成し、ドライバーにサプライズでプレゼントしたのだ。
「運転士にとってそのコーヒータンブラーは世界に一つですから。運転に疲れたときにタンブラーに手を伸ばし、少しでも心にゆとりを持ってもらえたら」。
もう一つの取り組みは「みらい会議」。これは月に1度、大阪、兵庫、岡山、愛知にある計8つの拠点合同で行う自主参加の会議で、午前中は売上げや収支報告を行い、午後からは研修を実施する。
「感動的なストーリーの映像を見てグループで話し合うなど、心を刺激するような研修を行っています。仲間同士で涙を流すこともありますし、そうやってみんなで心を動かしながら良心を育めたらと思っています」と宮田社長は説明する。
こどもミュージアムトラックを世界中に
こどもミュージアムプロジェクトは口コミで他社に広がり、現在、全国に60台のこどもミュージアムトラックが走っている。さらに中国や韓国など海外からの問い合わせもあるという。
「こどもミュージアムプロジェクトに参加するのは簡単で、トラックに子どもの絵とオリジナルのロゴマークをラッピングしてもらうこと、それだけです。さらに運送トラックだけでなく、たとえば送迎車や営業車などでもOKです。ぜひこのプロジェクトに参加し、社会を笑顔に変える一員になってもらえたら」。
そう熱く語る宮田社長の夢は、日本中、さらに世界中にこどもミュージアムトラックを走らせること。「そして事故を無くし、みんなで仲良く暮らせる社会をつくりたい」。
苦しみの中で生まれた取り組みだからこそ、夢の実現に向けた思いは本気だ。
(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)