【長編】苦しみから生まれた「こどもミュージアムトラック」が社会を笑顔に。
ドライバーの「良心」を呼び起こす方法はないか
「こどもミュージアムトラック」とは、宮田運輸が進める社会笑顔化計画(こどもミュージアムプロジェクト)を体現するトラックのこと。トラックの背面が子どもの絵でラッピングされているのが特徴だ。現在、同社が保有する125台のうち、25台がこどもミュージアムトラックとして全国を駆け抜けている。
同社がラッピングを始めたきっかけは、3年前の死亡事故。
「大好きなトラックが悲しみを生んでしまった……。苦しくて、苦しくて」。
そう打ち明ける宮田社長は子ども時代からトラックが好きで、社長を継ぐまでハンドルを握り続けた。
「私はこの仕事を心から誇りに思っているんです。でも信じているこの仕事を続けるほど、トラックの数を増やすほど、事故のリスクを高める結果になってしまうんじゃないか。この矛盾に苦しみ、いっそ、世界中からトラックが無くなればいいのにとまで思い詰めた」と打ち明ける。
宮田運輸では従来からさまざまな安全対策を講じている。毎日の点呼や研修、組織づくりに始まり、デジタルタコグラフやバックアイカメラ、ドライブレコーダー、車内をうつすドライブレコーダー……IT機器も駆使しながら対策に徹してきたが、やはり管理するには限界がある。
今後も安全対策を確実に実施していくが、「最終的にはドライバーの心にゆとりや優しい気持ちがなければ事故は無くならないと思い至ったのです」。
心のゆとりや優しい気持ち――そんなドライバーの「良心」を呼び起こすためにはどうすればいいか。
宮田社長が頭を悩ませていたとき、ある工場見学会で安全標語の言葉を子どもが書いているのを見て「うちもやろう!」と閃いた。
さらに時を同じくして、尾本さんからダッシュボードに飾ってある娘さんの絵を見せてもらい、「これだ!」と直感。
当初は尾本さんのお子さんの絵をポスターにして社内に掲示しようと考えたが、交通事故は自社の環境だけ良くなっても食い止められない。
「ならばトラックにラッピングして、社会全体を笑顔にしよう」と始めたのが「こどもミュージアムトラック」に発展した。
「〝トラックはこわい〟という印象から、〝トラックは社会に笑顔をもたらす〟という印象に転換したいんです。いま日本中に約150万台のトラックが走っています。そのすべてがこどもミュージアムトラックになれば、社会全体にゆとりが生まれ、交通事故はもちろん争いまで無くせるのではないか、そう本気で思っています」と宮田社長は力を込める。
子どもの絵を「背負う」と運転が優しくなる
お子さんの絵をラッピングしたトラックに乗り始めた尾本さん。
「以前から乱暴な運転をしていたわけではないんですが、子どもの絵を背負うとこれまで以上に自然と優しい運転を心がけるようになりました。後続車の人たちが絵に気づき、笑顔になってくれているのをミラー越しに見ると嬉しい気持ちになりますね」。
さらにサービスエリアに停車中、「写真撮ってもいいですか?」と声をかけられることもあるという。
「子どもが懸命に描いた絵は私たちの心に真っ直ぐに届き、人に優しくしたいという気持ちを呼び起こしてくれるんです」。
宮田社長がそう語るように、こどもミュージアムトラックは運転士はもちろん見る人の心を和ませ、事故の抑止力にも貢献している。実際、ラッピングしたトラックが事故を起こした例は一度もないという。
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