老舗和紙商店 モダンな和の空間
「和紙(わがみ)演出士」。この何とも風雅な肩書きを持つのは、和紙商小野商店(大阪市天王寺区)の三代目、河手宏之さんだ。同社は戦後間もない1946年に創業。日本家屋に用いる襖紙、障子紙の販売からスタートした。その後、取り扱い品目のバリエーションを増やすべく、和紙と洋紙の中間的な素材である小間紙の商いを開始。現在は、空間演出に活用する和紙の企画や和紙そのものの素材開発といった仕事が増える傾向にあるが、これは河手さんの経営方針と無関係ではない。
河手さんは家業に入るまでの1年間、現場での修行を経験している。「作り手の仕事を分かっていないと、自信を持ってお客さんに販売できない」との想いからだが、福井、三重、鳥取などの産地を訪ね歩き、それぞれの土地が産する紙の特長、工房の得手不得手、職人のクセに至るまで全てを見てきた。15年以上たった今でもお付き合いがあるというから、河手さんの仕事に対する熱意、誠実さが伝わってくるというものだ。
2009年には、クリエイターたちをコーディネートする大阪市の施設「メビック扇町」の交流会で素晴らしい出会いを得た。デザイン事務所である「ヴィジュアル計画マーレ」のデザイナーである牧野博泰さんと意気投合。和紙でコラボレーションすることが決まり、誕生したのが和紙のタペストリーアート「坤柄紙(こんがらし)」だ。和紙の柔らかな風合いを残しつつ切込みを入れることで、ライトを照射した際に光と影のコントラストが生じる。イラストレーターの中野クニヒコさん、包装士の鈴木美奈子さんも加わり、現在は大阪府内の異業種4社で活動中だ。国内では奈良の万葉文化館、大阪・西梅田のブリーゼ・ブリーゼなどの空間を演出しており、今年は韓国のソウルで開催される国際アートフェアにも出展が決まっている。9月5日(水)にはその前哨戦として大阪産業創造館の「トラディショナル・クール・フェア」でもお披露目される。
「家業を尊重しつつも、今後は企画やデザイン性など和紙に新たな付加価値を与えていきたい」と語る河手さん。「こんがら」には「何をすべきかを問い、その命に従い動く」という意味もある。和紙商の三代目には、すでに天命が見えている。
(大阪産業創造館 プランナー 竹内心作)
▲河手さんが扱う和紙は数千種類におよぶ
和紙商小野商店