【長編】「成長する機会」を社員に与え、「考える組織」へ転換
>>>では具体的にどのような対策をされたのでしょう。
とにかくいろんなことをやってきました。まず取り組んだのはリーダーの育成です。当時は組織の体を成していなかったので、まず部署をつくり、ベテラン社員をリーダーにしました。トップの指示を待つのではなく、現場で意思決定できる組織をつくりたいと考えたからです。
しかし、当時の社員の平均年齢は50歳近くで、長く当社で働いてくれている人がほとんどでした。だから先代の時代に培った習慣を変えることはできず、結局機能しませんでした。そこで、思い切って若手をリーダーに抜擢し、ベテラン社員を降格してサブリーダーにしたんです。ベテランにとっては屈辱だったかもしれないですが、若手にとっては活躍できる場が与えられたことで、自分で考え行動できるようになっていきました。こうして組織体制を徐々に整備するなか、少しずつ現場に理念が浸透していった感じですね。
部署とは別に社内プロジェクトを6つ結成し、若手をリーダーにして組織を動かす仕組みも取り入れました。たとえば「ありがとうプロジェクト」では、社員同士で「おおきにカード」を送り合います。日常業務のなかで得た感謝を言葉にしてやり取りすることで、書く本人ももらう本人も気持ちよく仕事ができるようになります。カードのやり取りは、当初は月に20枚程度でしたが、いまでは月に300~400枚にのぼります。これで社内の雰囲気ががらりとかわりましたね。
リーダーを多く設けている理由は、成長する機会をたくさん与えたいからです。社内プロジェクトは部署を横断してメンバーを決めているため、セクショナリズムの排除にもつながっています。
社員の成長のため、発表する機会も多く設けています。その一つが「経営計画発表会」です。各部署の目標を自分たちで決め、リーダーが全社員の前で発表します。トップの指示ではなく、現場で考え発表することで組織力を強化するのが狙いです。
発表する機会という意味では、学生に向けた会社説明会も貴重な場になっています。たとえば今年は入社二年目の新人に10分の持ち時間を与え、「入社1年目を振り返って」というテーマで発表させました。言われた本人は戸惑っていましたが、いざ本番を迎えると立派に話をしてくれました。半分無茶ぶりですけど(笑)、機会を与えると、若手は立派にやり遂げます。「やるやん」とこちらが関心するくらいです。たとえ失敗しても悔しさがバネになるし、今後も社員たちに成長の機会をどんどん与えていくつもりです。
ところで、会社説明会を当社では「感動会社説明会」と呼んでいます。就職活動中の学生さんにエールを送るプログラムを用意しているからです。6~8人程度のチームに分かれ、当社の社員が1人ついてワークショップ形式でチームを引っ張っていきます。最終的に学生さんの良い面を見てカードにまとめ、「君はこういう点がいいから就職活動がんばって!」と応援してあげるんです。ワークショップの各チームをまとめるのも新人に担当してもらっています。人材育成の一環であると同時に、去年まで自分も就職活動をした身なので学生さんの気持ちがわかるからです。
>>>入社式のサプライズもあると伺いました。
入社1年目の若手が新入社員の親御さんや友だちにインタビューし、その映像をまとめたサプライズムービーを入社式で流すんです。これもエンジョイ・カンパニーを体現する取り組みの一つで、こうしたプロジェクトを通じて組織力を強化するのが目的です。
数年前に新卒社員の採用を始めたんですが、その狙いの一つは既存社員の成長のためなんです。会社説明会ではワークショップ以外も新人に進行を任せ、会社の紹介をさせています。当社の採用は人物重視で、理念に共有してもらえる人だけに仲間になってもらいたいと思っています。だから新人社員は、会社説明会で学生さんたちに理念の意味をしっかりと語ってもらいます。
新卒社員の入社後の教育係も同じく新人に担当させます。新卒社員は理念に共感して入ってきてくれているので、新人は理念に沿った考え方と行動が求められます。理念と異なる動きをすれば、新卒社員からがっかりされますから。そんな先輩社員の行動を見かけたら、会社に報告してもらえるようにもしています。純粋に理念に共感する若手が入ってくることで組織全体が引き締まるんです。
全社で理念を共有するために「GOLD STANDARD」と呼ばれるカードもつくっています。経営理念や求める人材像、十訓などをまとめ、朝礼で唱和したりしています。経営理念、スローガン、十訓などを、全社員はほぼ暗記しています。すべては全社員が理念を共有し、同じ目標に向かって努力するためです。
こうして組織改革に取り組んできて一番大変なのは、意識を変えることですね。凝り固まった考え方や仕事の取り組み方を変えるほど大変なことはありません。ですが、焦りは一切ありませんでした。社員を信じて任せれば、絶対に成長できるという確信がありましたから。とはいえ、エンジョイ・カンパニーをめざした組織改革はまだまだ道半ばで、ようやく5合目に到達した状態です。理念を100%実現できる組織をめざし、これからも全社一丸となって前進していきます。
>>>では最後に今後の展望をお聞かせください。
当社の事業領域は販売促進用POPの製造・加工です。現在はそれだけでなく、売上アップや店内装飾、店頭オペレーションなど、POPの本質的な価値を高めるためのコンサルティング業への転換を模索しています。
同時に、海外進出も本格展開します。まず今年、フィリピンに印刷ショップを共同出資で設立します。フィリピンに進出する日本企業や現地企業の印刷需要に応えるのが目的です。次の展開としては、フィリピンにデザインセンターをつくりたいという構想も描いています。
将来的には、フィリピンなど海外展開に興味のある日本企業の進出支援も手がけられたらと考えています。市場が縮小する日本国内ではPOPが使われる場は減少していきますが、日本企業が海外に進出して店舗やショップを構えれば、POPが活躍する場が拡大することにつながります。本業にもリンクするかたちでコンサルティング業の業容を拡大していく予定です。
アサヒ・ドリーム・クリエイト株式会社
代表取締役
橋本 英雄氏
販売促進用POPの製造・加工を柱に事業を展開。売上UPや店内装飾、店員オペレーションの簡易化など、POPの本質的な価値を高めるためのコンサルティング業への転換を模索。フィリピンでの印刷店舗ビジネス進出を皮切りに海外展開も本格稼働させる。