手のひらサイズの機器で疾病の重篤度を判定

これから伸びる市場は?どんな技術や発想が注目されている?「次世代ビジネス発掘ラボ」では、そんな“これからの可能性”を探るべく、ユニークな取り組みに挑む企業や人にフォーカス。まだ知られていない、でもおもしろい!を発見する連載です。
【Case.6】株式会社イムノセンス執行役員CTO 岡 弘章氏
新型コロナウイルス感染症やインフルエンザにかかっているかどうかを判定する抗原検査では、ウイルス(タンパク抗原)の有無、つまり陽性か陰性かを判定するのが一般的です。一方、株式会社イムノセンスが開発した「GLEIA(グライア)」は、抗原の有無だけではなく、その“量”までを測定することができる技術です。
この仕組みは、血液などに含まれる病気の指標となるタンパク抗原を抗体がとらえ、さらにそれを金の原子で標識した抗体で挟み込みます。これを電気化学反応させると、金の原子の数、すなわち抗原の数に応じた電流が発生します。その電流量を測定することで、抗原の量を数値として計測することができます。「抗原の数までわかることによって、疾病の重篤度まで把握できるようになります」と岡氏は話します。

手のひらに収まるサイズのGLEIAセンサ
大阪大学産業科学研究所 特任教授の民谷栄一氏が開発したこの「サンドイッチ電気化学免疫測定法」をもとに、2018年に創業したのが株式会社イムノセンスです。従来の光学式を用いる検査手法では、1台数千万円を超える大型検査機器が必要とされていました。一方、「GLEIA」は、高い検査精度を保ちながら、電子回路のみのシンプルな構成の検査装置を採用。これにより、測定器は手のひらに収まるサイズで、価格も数万円に抑えたことが最大の特長です。この小型、低価格化によってPOCTサービス(診療所や在宅医療、遠隔地、災害現場などさまざまな医療現場で行われるリアルタイム検査の総称)への展開も期待されています。

医家向け専用測定器
同社では、医療機関や訪問医療で使う医療用モデルと、家庭で日々の健康状態をチェックする個人用モデルの2種類について商品化をめざしています。心不全と血栓に対応するセンサーについては開発済みですが、その中でも同社が最大のターゲットとしているのが、日本人の死因の多くを占める心不全です。心不全の指標であるNT-proBNPの値は、健康な人は通常10ピコグラム/ml程度、“予備軍”では55-125ピコグラム/mlであるのに対し、重篤な患者になると1,000~5,000ピコグラム/ml、あるいはそれ以上に上昇します。抗原量を測定することによって重篤度に応じた治療が可能になり、さらに治療効果も測定することができる点も大きな特長です。「今後は、国立循環器病研究センターと連携し、心不全患者に対するモニタリングで効果を実証したいと考えています。そして、心不全の標準的な検査としてガイドラインに組み込まれ、保険適用されることをめざしたい」と岡氏は話します。一方で、オーストラリアをはじめとする海外市場の展開についても並行して取り組んでいく方針です。

個人向け専用測定器
その他の収益源として取り組むのが、特定の物質量を測る各種センサーの開発です。今年2月には、大手飲料メーカーと連携し、「免疫」の状態を可視化する独自のセルフ検査サービスの商品化に向け着手しました。同社が商品化した免疫機能の向上をうたうサプリメントの効果を測定するため、唾液中の物質を分析することにより、自宅などでも手軽に免疫状態を確認できる仕組みの構築をめざしています。イムノセンスが掲げる「いつでも・どこでも・だれでも 医療グレードのヘルスチェック」の実現に向け、挑戦が続いていきます。
(取材・文/山口裕史)
<Bplatz編集部 取材メモ>
これまで大型で高額な装置が当たり前だった検査を、手のひらサイズ・低価格の装置で実現できる。その一歩が医療をもっと身近にしていくと、可能性を感じました。しかも、この挑戦が大阪発のベンチャーから生まれているという点にも胸が躍ります。大学発の研究成果を社会実装へとつなげ、医療機関だけでなく家庭でのセルフチェック市場まで視野に入れる、「いつでも・どこでも・だれでも 医療グレードのヘルスチェック」という未来像が、決して夢物語ではないことを実感した取材でした。大阪から始まる次世代ヘルスケアの広がりに、これからも注目していきたいと思います!









