当たり前を、当たり前に 大阪から「納豆日本一」をめざす

納豆の原材料は大豆、水、納豆菌の3つ。洗った大豆を吸水させてから圧力釜で蒸煮(じょうしゃ)し、熱々のうちに納豆菌を噴霧、室(むろ)の中で発酵させることで納豆へと生まれ変わる。株式会社エイコー食品会長の佐藤氏がめざす理想の納豆像は「糸引きなどの見た目」「大豆らしい食感」「発酵によって生み出されるうまみ」を引き出すことだ。原材料も工程もシンプルなだけに、理想に近づけるには「グルメな納豆菌を喜ばせるために、良質の大豆を選び、食べやすいように水分を含ませ、おいしく蒸煮すること。そして、納豆菌以外の菌が付かないように清潔に保つ。そうした当たり前のことを、いかに当たり前にできるかが問われます」と語る。

取締役会長 佐藤 光乙氏
なかでも、食感や味わいを左右する発酵については、室の温度経過をスマホで確認できるようにし、細心の注意を払ってチェックするだけでなく、最後は室の前に立って「もっと温めた方が良いのか、冷ました方が良いのか、納豆菌の声を聞く」という。「もちろん目には見えませんが、わかろうとする気持ちが大事なんです」。その姿勢から納豆に対する愛情が伝わってくる。

大阪は東日本の消費地に比べ納豆消費量が半分以下という「納豆不毛の地」だ。佐藤氏の実家は、もともと家業として納豆を製造していたが、小さい頃は「大阪で嫌われている納豆を作っていることが恥ずかしく、家業のことを口に出すことがためらわれた」と振り返る。当初は家業を継ぐつもりはなかったが、自分たちでおいしい納豆を作ってみたいという気持ちから2008年、事業を引き継ぐ形で弟と共にエイコー食品を設立した。

関西納豆工業協同組合の会合に参加し、大阪の人が苦手とする「臭い」や「ねばねば感」が出ない作り方をどん欲に学んだ。その成果が実を結び、2年後の全国納豆鑑評会で特別賞を初受賞。看板商品の「極光(きわひかり)」は通常の納豆と比べ3倍ほどの価格だが、生協や高級スーパーを中心に売り場を着実に増やしている。鑑評会での受賞はこれまでに7回を数える。めざすのは、日本一の証ともいえる農林水産大臣賞。パソコンのトップ画面には、何度も受賞している常連メーカーの商品画像を貼って「常にゴールのイメージを思い描くようにしている」という。そのたゆまぬ姿勢は「大阪の人に納豆をおいしいと思わせて見返したい」という強い思いだ。

日本が誇る伝統食品、納豆の効能はよく知られるところだ。「納豆産業が世界各地に広がれば、世界の人が健康になり、雇用も生む」と真剣に語る佐藤氏。国境を越えて納豆の魅力を伝えるためには、単なる食品としてではなく、「納豆菌が作り出す作品」として発信していくという新しい切り口が必要だと力説し、発信のアイデアを温めている。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
※掲載写真は、編集部にて撮影したもの以外に、取材先企業からご提供いただいた写真も含まれています。
《 開 発 秘 話 》
迷いの先に生まれた食感
納豆を作り始めた頃は、卸先や消費者から「豆が柔らかすぎる」と言われれば硬めにし、「硬すぎる」と言われれば柔らかくする、といった具合に、商品の軸が定まらなかった時期がありました。しかし、「ユーザーの声に合わせてばかりでは、いつまでもエイコー食品のブランドを築くことができないのではないか」と考えるように。そこで、自分が一番良いと考える、柔らかすぎず硬すぎず、大豆そのものを感じられる「心地よい食感」にたどりつきました。









