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先代とぶつかるも、安心安全と品質へのこだわりは引き継いでいく

2024.12.05

以前は異なる業界で働いていた。所属した経営企画部の仕事がおもしろく、「この頃の経験が現在の経営観や仕事に対する姿勢につながっている」と清水氏は話す。転機は31歳の時。異動した部署の仕事はこまごまとした調整業務が多く、「仕事が楽しくない日々」に変わった。同時期に社内に不祥事が起こる。「それが許せなかった」。その時に「自分は公明正大で特にお金に対して潔癖なんだな」という価値観が浮かび上がった。

その後、当時会長だった父からは「履歴書を持って面接に来い」と何度か誘いはあったが、父が70歳になるタイミングで豊開発への入社を決めた。とりたてて迷うこともなく豊開発に出向くが、会社のことをほとんど知らないことに気づいた。会社案内もホームページもない。わかるのは建設業で土木工事をしていることだけ。誰が顧客で、何が強みなのかもわからなかった。

入社してわかったのは仕事の進め方がアナログなことだ。連絡は電話、書類はほぼ手書きで、過去の記録を調べようにも検索しようがなかった。業務改善のために、まずは身近なところのデジタル化からだと、グループウェアとチャットを導入して効率化を進めた。

もうひとつ気になったことは、父が想像以上にワンマンなことだった。すべてトップダウン。決裁は父の意見ひとつ。「一番辛かったのは、オフィスで社員に対して厳しい口調で指摘することでした。特に、過去の失敗に触れてそれを叱責するやり方が自分には合いませんでしたね」と清水氏。数年後には会社を継ぐつもりで入社していたが、「これは事業承継まで持たないかもしれない」と危機感を覚えた。とはいえ、簡単に投げ出すわけにはいかない。口には出さないものの、後継者が入社したことに期待を持っている社員がいると感じたからだ。「この人たちのために残らなければ」。折しも2020年に創業30周年を迎える。豊開発のこれまでを整理しようと施工実績を整理し、社史をつくった。同時に、自分がいなくても続いていく会社にしたいと、50年後、100年後の未来像を描き、採用の仕組みや人員体制といった会社の基礎作りを始めた。そうして2022年に事業承継、社長となる。

しかし、先代のワンマンぶりは続く。社内稟議で清水氏が決裁したものを、“これはどういうことや”と直接担当者に言いに行く。当然、社員たちは「どっちが正解なんですか?」と迷う。清水氏は先代に「最終決裁者は僕です。何かあるなら担当者ではなく僕に言ってきてください」と当たり前のことを言わなければならなかった。

さらに大きな出来事が起こる。税務調査が入り、追徴課税と重加算税を受けることになったのだ。追徴金額は多額で、当時社内には払えるだけのキャッシュがなかった。清水氏はこの時点で「会社が潰れる」と思ったという。が、気持ちを立て直し、借入を起こして年度内に全額税金を支払った。この件に関しても先代と意見が対立したが、「全部自分が引き受けるから、もう引き下がってくれ」という思いを込めて多額の借金を背負ったという。「そこから父とは冷戦状態です」。会社員時代に自覚したお金に対して清廉潔白でありたいという価値観がここでも浮上した。

そんな先代からも大切に引き継いだものがあると清水氏は言う。「絶対に事故を起こさないという安全へのこだわり、そして品質へのこだわりです。それは親子関係とは別。会社が創業以来積み上げてきたものですから、豊開発の資産として守っていきたいですね」。

(取材・文/荒木さと子 写真/福永浩二)

清水 勇輝氏(豊開発株式会社 代表取締役)
1990年創業。山留め工事、杭工事といった土木工事(基礎工事)の専門業者。先代(父)がつくった会社の2代目として2022年に就任。就任後は工事の品質向上はもちろん、会社と建設業界の未来を見据えてミッション、ビジョン、バリューを再定義。また、「あそ部」という部署を立ち上げて、広報、採用、ブランディング、新規事業など、会社の土台作りに力を入れている。

Motivation Graph〜事業承継で最も困難だった3つのできごと〜

■2018(33歳)
前職を退職することを決意
経営企画部から他部署へ異動になり、やりがいを感じられない日々を過ごす。そんな時に社内でトラブルが発覚。仕事やお金に対する価値観が明確になるとともに退職を決意。

■2020(35歳)
父の経営方針と対立
入社したものの、業務改善や新しい取り組みに関して父(当時会長)と意見が合わない。経営感が受け入れられず、一時は辞めることも考えた。

■2022(37歳)
税務関係でバタバタ
税務関係で指摘を受けその対応に追われる。いいことも悪いことも全て自分が引き受ける決心がつく。

豊開発株式会社

代表取締役

清水 勇輝氏

https://www.yutaka-kaihatsu.co.jp

事業内容/土木・建築・基礎工事一式