商品開発/新事業

栗山縫製株式会社の地球黒字化経営 布の命を生かすサスティナビリティ

2024.01.12

繊維業界で出る布の中で、裁ち落ち(使われない部分)や残布はおおよそ20~30%といわれている。それらは廃棄布として焼却される。その量や処分方法に心を痛め、廃材を再利用して地球環境に良い取り組みができないものかと考えた企業がある。東大阪市の栗山縫製株式会社だ。

同社は創業65年。縫製業者として衣服に関してはオールアイテム、特殊なものとしては医療用品、担架、ウィングスーツなどの縫製を行い、また、さまざまな商品のリペアを行っている。コロナ禍の際は同業他社を取りまとめ、医療現場で使用するアイソレーションガウンを200万着生産し、その中心企業としての実績を経済産業省に表彰されている。

同社代表の栗山氏は、「繊維業界は他産業に比べて廃棄率が高い。布の裁ち落ちが大量のゴミとして処分されるのを見て、ずっと“もったいないなあ”と心に引っかかっていました」と話す。とはいえ、資金力のある大企業が行うような再生利用は難しい。そのために化学薬品を使い、新たにエネルギー消費することにも抵抗があった。「中小企業らしい、地に足の着いた取り組みってなんだろう」。

廃棄される布の裁ち落ち部分

そこで着手したのが廃棄布を身近なところから再利用すること。たとえば裁ち落ち分を小さく切り、機械類の油や汚れを拭き取る“ウエス”に転用。近隣の鉄工所に無償で提供している。また同じように、余った布を切り絵のアーティストに提供して作品の素材に。あるいは伝統工芸の“裂き織り(さきおり)”の素材として使ってもらうことで、残布の活用と伝承の両方に役立てている。

さらに目を引くのが、塗装業者(ペンキ)の養生シートとして使用した残布を一点もののバッグやコートに仕立て上げていること。ペンキが飛び散った柄は意図的に描いたものではなく、偶然でリアルな色柄。その布と同社の縫製技術とを掛け合わせ、デザイン性の高い製品によみがえらせた。同社はこれらを収益事業にするというより、「本来廃棄される布たちを活かし、“お分け”していく気持ちでつくっている」という。

ペンキの養生シートが同社の縫製技術で一点もののバッグに変身

この取り組みをビジョンにしたのが、栗山氏の言葉でいう廃材の命を活かすサスティナビリティ「地球黒字化経営」である。「自宅からゴミを捨てたら自宅はきれいになる。でもそれはゴミを移動しただけで、なくなっていないんです。もし地球が自分の家だとしたらどうしますか?そんなふうに思考を広げてほしいんです」。多くの業種で身近なことから始め、地球黒字化経営に賛同する仲間たちを増やしたいと考えている。

実際、同社では上記の取り組みを通じて、布の廃棄率が以前より20%削減された。将来的には50%削減を目標にしている。「うちは縫製事業をしているから布の“死材”を“資材”に変えましたが、この取り組みはどんな業種でもできると思うんです」と栗山氏。「やらなければならないというより、地球のためにやらせてくださいという気持ち。天命やと思っています」と語る。

代表取締役 栗山 泰充氏

(取材・文/荒木さと子)

栗山縫製株式会社

代表取締役

栗山 泰充氏

https://www.kuriyama-sewing.co.jp

事業内容/衣服や雑貨の緊急縫製とリペア(修理)