スタッフ連載

顧客のワクワクを描き、形にする相棒たち

2023.03.28

大阪産業創造館プランナー 中尾 碧がお届けする

社長だって一人の人間、しんどい時もあります。そんな時にモチベーションの支えとなり、「一緒に頑張っていこな!」と声をかけたい“人”または“モノ”がきっとあるはずです。当コラムでは社長のそんな“相棒”にクローズアップ。普段はなかなか言葉にできない相棒に対するエピソードや想いをお伺いしました。

【 vol.27 】有限会社トン~顧客のワクワクを描き、形にする相棒たち~

有限会社トンのオーナーデザイナーとして、鞄や服飾雑貨の企画、ODM・OEM、自社ブランドの展開を手がける工藤氏だが、学卒後は幼稚園教諭でキャリアをスタートさせた。

ある日、昔から好きな絵に関わりたいと通っていたデザイン学校で、バッグデザイナーであり今でもデザイナーの師として仰ぐ女性を紹介された。その時の彼女の「人は行きたい方向が見つかると、時間がかかっても必ずそこに向かって行ける。早くやりたいことが見つかるといいね。」という言葉に心を打たれた。

その後、イラストレーターへの転職が内定していた会社へ訪問した際も彼女と再会。今度は「あなたはなぜここにいるの?それならうちにくれば?」と声をかけられた。当時はまだバッグに関心があったわけではなかったが、彼女が社長を務めるバッグの問屋に興味が湧き、入社を決意した。

入社後は主にダイレクトメールやカード、商品リストの作成、ディレクションに携わった。コーポレートアイデンティティの全盛期という時代背景や海外出張もあり毎日刺激的で楽しかったが、数年経つと別の道を考えるようになった。その時、社内でバッグデザイナーが求められていることを知る。デザイナーとしての経験は無かったが、彼女の「あなたデザインやってみない?仕事が好きで、素直ならできるようになっていく。テクニックは後からついてくる」という言葉が背中を押した。

それから33年。一度もこの仕事を辞めたいと思ったことはない。「彼女に恥をかかせるような仕事をしてはいけない」というプライドは、今も仕事への原動力だ。

バッグ問屋で12年、バッグメーカーで2年、インハウスのデザイナーとして経験と技術を積み重ね、2003年に企画・OEMを手がけるバッグデザイナーとして独立し、2005年法人化。
従業員も雇用し、大手セレクトショップや百貨店ブランド、アパレル、通販、TV、タレントバッグと、バッグと言うカテゴリーの中で、多岐に亘る案件を国内小ロットから海外大口まで幅広くこなし、忙しくとも充実した日々だった。

2009年には主業の他社ブランドの企画デザインやOEMに加え、自社国産バッグブランド「INTRODUCTION(イントロダクション)」をコレクションスタート。西宮市夙川の直営店を旗艦店として、阪神間の百貨店期間限定ショップや全国卸、webサイトで展開している。

大手企業の企画デザイン、自社ブランドの展開と会社はどんどん大きくなり、デザイナー兼社長として多忙な日々を送る工藤氏。そんな工藤氏の“相棒”は鉛筆と模造紙、50センチの物差しだ。時間がかかっても手を動かして図面を引くことで、イメージしていたものが紙上にピッタリ上がってくるという。デザイナーとしての一歩を踏み出したその日から、このスタイルは変わらない。顧客にどんなワクワクする体験を届けられるかを考え、形にすることはデザイナーにとって大きな幸せだ。

素材の特性、各工場のミシンや作業工程のことも考えながら手作業で描き、今まで数多くの商品を世に生み出してきた。その間、仕事の幅は広がり、会社を支えるスタッフも増えた。めざすのは、小さくてもしなやかで堅い会社の風土創り。自社ならではの企画、デザインした製品を産み出すことで、顧客に愛着を持ってもらい、生活にも長く寄り添えるモノ創りを通した人づくりにも取り組む。そして、自身がこれまで教わってきたことを伝えていくデザイナーを育てることも工藤氏の新たな役割だ。

INTRODUCTIONには、「引き合わせ」という意味もある。多くの人から学び、培ってきた経験やデザインで、これからもたくさんの人や縁を引き合わせていく。

代表取締役社長 工藤 友里氏

(取材・文/大阪産業創造館マネジメント支援チーム プランナー 中尾 碧)

有限会社トン

代表取締役社長

工藤 友里氏

https://introduction-bag.com/

事業内容/バッグ・小物・服飾雑貨の企画・ODM・OEM,自社ブランド「INTRODUCTION」の展開